過去ログ - 唯「われなべ!」梓「とじぶた!」
↓ 1- 覧 板 20
1:けいおんSS[sage saga]
2015/11/10(火) 20:57:54.99 ID:bw1SoqCW0
パキッ、と小気味良い音を立てて、割り箸が真っ二つに割れた。
「あっ、きれいに割れたね〜。おめでと〜」
両手を小さく叩きながら唯先輩が笑う。
別に嬉しくもないんですけど…。
「お先にいただきます」
もうもうと湯気を立てて運ばれてきた大盛りチャーシュー麺を目の前にして、
お腹の下の方が小さく音を鳴らす。
「あずにゃん、大盛りなんて食べれるの?」
「いつも大盛りですよ、わたし」
「ふぅん」
脂っぽいラーメン屋のテーブルに肘をつき、両手で頬を支える唯先輩。
丼からは湯気が立つ。もうもう。
その湯気越しにきょろきょろ左右に動く唯先輩の茶色がかった瞳が見え隠れした。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:名無しNIPPER[sage]
2015/11/10(火) 20:58:13.04 ID:FYL+SnMAo
>2147483647
3:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 20:58:47.65 ID:bw1SoqCW0
いつもならもうちょっと、大盛りチャーシュー麺なんて頼んだら女子としてどうなんだ、とか、
人に見られてどう思われるっていうか、他人が持つ自分のイメージっていうか、
そういうの意識してるけど、今日はもういいや。
“ご自由に”と書かれた容器の蓋を外し、ばんばんキムチをラーメンに入れる手は止まらない。
続いてニラも。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 20:59:32.45 ID:bw1SoqCW0
満席になってもたぶん10人も入らないんじゃないだろうか、という狭い店内。
天井近くに設置された手作りの台の上にブラウン管のTVが置かれていて、
最近売り出し中と評判の若手芸人が合コンの失敗談を楽しそうに語っていた。
オレンジ色の薄明るい照明の下にはわたし達二人だけで、
5:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:00:40.61 ID:bw1SoqCW0
あちゃ〜…と情けない声をあげた唯先輩は、眉を八の字にしながら不恰好に別れた箸を代わる代わる見つめる。
「…律先輩も下手なんですよ、割り箸割るの」
唯先輩は一瞬真顔に戻り、それからすぐに表情を緩め「そうだね」と笑って言った。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:02:06.31 ID:bw1SoqCW0
「あずにゃん、はじめてこのお店に来たのっていつ?」
「そうですね…今年の1月くらいだったでしょうか」
唯先輩は片手を上げ、笑顔で駆け寄ってきた女性の店員さんに生中のお代わりを頼んだ。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:02:55.24 ID:bw1SoqCW0
「勝ちは勝ちだよ、あずにゃん」
酢醤油の入った小皿に餃子を浸し、唯先輩がもぐもぐと咀嚼しながら喋る。
ギュッと手を握るとニンニクが小さく音を立てて潰れていった。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:03:49.03 ID:bw1SoqCW0
「じゃあ…回数はどうですか」
「回数?」
わたしは新しい割り箸をパキッと割り(またきれいに割れた)、
9:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:04:26.97 ID:bw1SoqCW0
「あずにゃんや」
「はい」
「いま思ったんだけど」
10:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:05:29.38 ID:bw1SoqCW0
★
“生協でハーゲンダッツが安売りしてたんでつい買っちゃったんです。ひとりじゃ食べきれないんで一つどうですか?”
夜23時半。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:06:02.57 ID:bw1SoqCW0
わたしは意味がわからず、合図を無視して唯先輩に近づき、気がついた。
部屋の扉がうっすら開いている。
自然、視線は隙間に吸い寄せられていく。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:06:54.70 ID:bw1SoqCW0
夜の女子寮を飛び出し目的もなくただ全力で走り続けて…いつしか鴨川の手前まで来たころ、わたしはビニール袋の中に手を突っ込み、ハーゲンダッツを二つ掴むと、大きく振りかぶって腕を振り、川の中に放り投げた。
真っ暗闇に放物線を描き、ハーゲンダッツは飛んでった。
『なかなかいいフォームだね』
13:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:07:42.53 ID:bw1SoqCW0
鴨川を見下ろした唯先輩は、目を細めてアイスの落下点を探すように左右に視線を泳がせた。いや、見つけてももう食べれないし。
わたしの心の声が聞こえたのか、自分の行動の無意味さに気づいたのか、唯先輩がこちらを振り向いてニコっと笑うと、『風邪ひくよ』とわたしの首にマフラーを巻いて、
『わたしもねー、りっちゃんのこと、好きだったんだよねー』
14:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:08:44.54 ID:bw1SoqCW0
唐突な告白と、なんでバレてたんだろうという疑問が胸の内をぐるぐる巡り、
発言が冗談なのか本気なのかも判断できず、
気の利いた返答も思いつかず、
わたしはただ並んで川面を見下ろすしかできなかった。
15:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:09:46.15 ID:bw1SoqCW0
★
「だからさ。一緒にラーメンを食べに行ったその日のりっちゃんはさ。澪ちゃんのものじゃなかったと思うんだ」
なるほど。
16:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:10:45.14 ID:bw1SoqCW0
「…唯先輩は、」
わたしのジョッキはというと、3/4も減っていない。
「唯先輩は律先輩を独り占めしたいとは思わなかったんですか」
17:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:11:55.88 ID:bw1SoqCW0
★
あずにゃんがわたしのことを甘いもの好きな人、って思ってるのは知ってる。
そのとーりだよ。ちっとも間違ってないよ。わたしは甘いものが好き。昔も今も。かわらないよ。
18:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:13:14.22 ID:bw1SoqCW0
夏頃だったと思う。
ライブがあって、その打ち上げの帰り。
なんだかまだ飲み足りなくて、そーいえばこないだ部屋飲みしたときの残りが、まだ冷蔵庫に残ってたじゃん、って思い出してりっちゃんを誘った。
じゃあツマミはわたしが持ってくわ、と言ったりっちゃんが差し出したのはキムチ。
19:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:14:05.34 ID:bw1SoqCW0
げっ、辛そう!
もうこのニオイだけでイヤな予感がする。
うーん、どうしようかな。
迷ったけどりっちゃんに笑われたのが悔しい気持ちもあったし、
20:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:15:26.48 ID:bw1SoqCW0
自分がけっこー辛いものもイケちゃう、ってわかってからも、5人でいるときはあんまりそんな素振りを見せることはなかったと思う。多少の恥じらいもあったのかなぁ。
それにみんなと一緒のときは甘いものを食べる機会の方が圧倒的に多かったし。甘いものは変わらずに好きだし。
『唯先輩はホントに甘いもの好きですよね…』
21:名無しNIPPER[sage saga]
2015/11/10(火) 21:16:25.14 ID:bw1SoqCW0
キムチのおいしさを教えてくれたりっちゃん。
だからわたしにとってのキムチの味は、りっちゃんの味。
大好きになったキムチ。
49Res/32.19 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。