1:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 14:57:45.99 ID:bauBs7zr0
「うわっ」
わたくしの声ではありません。
寝言を漏らすほど、わたくしは落ちぶれてはおりません故。
如何なる時でも気高く、そして荘厳に在れ。
この生まれ故郷の信条だけは、いえ、それだけを誇りに、独りで生き永らえてきた今があるのです。
じいやにあれだけ口を酸っぱく言われ続けたのです。いつ何時も忘れる訳がありません。
そんな信条を胸に、何も変わることのない退屈な日々を生きるのです。
何もない。わたくしだけの、毎日を。
それは今日とて同じです。
わたくしは、わたくしで在る為に。
今日もまた、気高く在るのです。
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2:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 14:58:25.25 ID:bauBs7zr0
目を覚ます時だって、例外ではありません。
騒ぎ立て、砂煙を巻き上げてはしたなく飛び起きようものなら、わたくしはわたくしでなくなるのでしょう。
急き起きることなど、以ての外。
3:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 14:59:59.02 ID:bauBs7zr0
「いやああああ!!」
頭よりも身体が云々とは、正にこのこと。
阿鼻叫喚、わたくしの身体は砂煙を巻き上げてはしたなく飛び起きました。
4:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:00:41.73 ID:bauBs7zr0
違うのです、じいや。
誇りを失った訳など、ありません。
あの様に、突然見知らぬ人の子を見れば誰とて。
5:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:01:11.35 ID:bauBs7zr0
破裂音を発する程に、瞼を勢いよく開いたわたくしは、先程の声がした方向に顔を向けました。
顔を向けた先には、見飽きた砂が爪程凹んでいるだけで、特に何がいるという訳ではありませんでした。
しかし、よく見ればその砂の凹みが点々と続いているではありませんか。
その凹みを目で追うと、一尾半程でしょうか、離れた処に、ぽてん、と胡座をかいて座る砂だらけの少女が。
6:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:01:44.03 ID:bauBs7zr0
「どうしてここに」
「ねぇ、ホンモノ?」
「ほ、ほんものとは」
7:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:02:58.61 ID:bauBs7zr0
「ねぇ、さわっても良い?」
そう訊くなり、少女は艶やかな黒い髪を揺らして、勝手にわたくしの身体を触り始めました。
「い、いけませ」
8:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:03:24.08 ID:bauBs7zr0
「おそろしくないのですか」
わたくしがおかしいのでしょうか。
そもそも人間と触れ合うこと自体が、有り得ないというのに。
本当に、有り得ない、有り得ないと思いまして。
9:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:03:53.80 ID:bauBs7zr0
少女の名前は『がなはひびき』。
この島の住人だそうです。
どうして此処に来られたのかは、自分でもわからない、とのこと。
穴をくぐって、さらにくぐって、それでもくぐり抜けたら、たどり着いたそうです。
10:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:04:25.11 ID:bauBs7zr0
「わたくしはつねにけだか、……はて?」
「おなかすいたの?」
「ちがいます」
11:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:04:57.43 ID:bauBs7zr0
いつの間にか背中に跨がっているひびきに、わたくしは訊ねます。
「ひびき」
「うん」
12:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:05:30.05 ID:bauBs7zr0
見かけに似合う軽快な身のこなしでわたくしの背中から降りると、どこか誇らしげに胸を張り、ひびきは続けました。
「自分、どうぶつのいうことわかるからね」
「なんと」
13:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:05:59.24 ID:bauBs7zr0
「あんまーも『えー、ほんとにー? すごーい』って」
「いや、それは」
彼女は更に平たい胸を突き出す様にしながら、口元をにやつかせています。
14:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:06:31.39 ID:bauBs7zr0
突然の出会いから月日は経ち、そしてあれから毎日の様に、響はやって来るのでした。
『我那覇響』とふらふらした文字で書かれた紙を、嬉しそうに見せてくれた日。
学校でケンカした、と大粒の涙を零しながら駆け込んできた日。
15:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:07:15.50 ID:bauBs7zr0
「おーい」
今日は学校が無い日と言っていましたからね。
最近よく見る制服とやらではなく、響らしい軽い見た目の格好でやってきました。
16:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:07:48.51 ID:bauBs7zr0
「いえ」
「嘘だ」
「なにゆえ」
17:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:08:16.65 ID:bauBs7zr0
「嬉しそうにしてる時って、いっつも耳がピコピコしてるもん」
「し、してません」
「昔からの癖さー」
18:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:08:48.52 ID:bauBs7zr0
憎たらしい顔を浮かべ続けながら、響は隣に腰を下ろします。
そして流れる様に、わたくしの身体に手を伸ばしました。
「ぷにぷにして」
19:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:09:14.68 ID:bauBs7zr0
いつからでしょうか。わたくしよりも響の方が、物知りになったのは。
響の話には、わたくしが見たことも聞いたこともない動物が沢山登場するのです。
この海を越え、陸を越え、更には海を越えた処には氷の世界が在り、そこに住まう命についても博識なのだから、面妖です。
わたくしが響を背中に乗せて、大空を舞う時もそうです。
20:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:09:41.66 ID:bauBs7zr0
「今日は早いですね」
「一緒にお昼食べたくて」
「そうですか」
21:名無しNIPPER[saga]
2015/12/27(日) 15:10:28.22 ID:bauBs7zr0
「じゃーん」
響は得意げに、銀色の筒と片手大の白い何かを取り出しました。
「何だと思う?」
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