過去ログ - 森久保乃々「十年目の夜」
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13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 15:24:34.21 ID:KdggYUJB0
 流石にいまはそんなことはしないが、デビューしたころの彼女はなにかがある度にデスクの下に潜っていた。



 腕時計に目をやると、時刻は二十時を少し越えていて、ラジオの収録を終えた彼女がそろそろ帰ってくるころだ。
以下略



14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 15:26:41.72 ID:KdggYUJB0
 更衣室に行くために彼女が出ていった事務所の扉の先を、なんとはなしに見つめる。

 いつのまにか彼女は、遠く、大きい存在になってしまった。


15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 15:30:54.68 ID:KdggYUJB0
 着替えに行った彼女が戻ってくるタイミングに合わせて、コーヒーを淹れなおす。彼女が遅くに帰ってくるときは決まって、こうしていた。

 ガラステーブルを挟んで、お互いに向かい合う形でソファに腰掛ける。

 彼女はピンクの、俺は水色のマグカップで、これは彼女がデビューしてすぐのときに買ったものだ。
以下略



16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 15:35:08.19 ID:KdggYUJB0
 彼女がアイドルとして覚醒したのは、二十歳を迎える少し前だっただろうか。月並みな言い方だが、彼女は文字通り「化けた」。

 容姿や性格といった個性は、一度アイドルとしてファンに周知されてしまえば、そう簡単に変更できるものではない。

 ましてや彼女にはそもそも野心がないというのに。
以下略



17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 15:49:26.06 ID:KdggYUJB0
 イベント企画ではアフリカの奥地に行って芋虫を食べたり、現役プロレスラーと共演したバラエティ番組では番組の罰ゲームとしてジャイアントスイングをかけられたり、そういった俺のプロデュースがあってか、彼女は仕事を経ていくうちに、いわゆる危機回避能力のようなものを会得した。

 自分に危害が及びそうなものに対しての嗅覚が鋭くなったのはもちろん、ここぞというところで、罰ゲームやテレビ的には「オイシイ」とされるポジションを避ける勘や運が身についたように思う。目立ちすぎることも目立たなすぎることもない、絶妙な立ち位置を彼女は掴んだのだ。

 それに気付いた誰かがネットの掲示板で呟いたことから、森久保乃々という少女は、次第にその知名度を高めてゆくことになった。
以下略



18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 15:54:41.26 ID:KdggYUJB0
 彼女のもう一つの強みは、アイドルとしての安定性だった。

 たとえゴシップ紙に彼女を貶めるような記事が載っていたとして、ファンの殆どは歯牙にもかけなかったからだ。

 彼女はその野心のなさゆえに、ファンを手放すことはなかった。
以下略



19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 15:57:42.04 ID:KdggYUJB0
 乃々「……プロデューサーさん?」

 眉根を少しだけ寄せた彼女が尋ねてきた。

 P「ん、ああ悪い、考え事してた」
以下略



20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 16:02:35.06 ID:KdggYUJB0


 乃々「もりくぼのこと、いぢめたかったら、いぢめてもいいですよ……?」




21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 16:11:37.59 ID:KdggYUJB0
 P「こら。お前というやつは」

 思わず目の前の小さな頭にチョップをしてしまった。

 乃々「あうぅ……」
以下略



22: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 16:16:10.36 ID:KdggYUJB0
 P「森久保、今日の晩飯はなんだ」

 乃々「え、今日はまだ決めてませんけど……もりくぼ一人なので帰ってから適当に食べようかと」

 P「お前、辛いものは食えたよな」
以下略



23: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/02/19(金) 16:27:05.56 ID:KdggYUJB0
 急いで事務所に戻り、彼女に帰ってきたことだけを告げて給湯室に向かう。流しとカセットコンロは備え付けてあるから、簡単な料理ぐらいは作れる。

 作っている途中で、彼女が顔を覗かせた。

 乃々「いきなりどうしたんですか、プロデューサーさん」
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