16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:30:25.95 ID:vxIFxQsM0
自分の脈拍が、急にうるさく聞こえてくる。
時折顔を撫でるように吹く夜風が、背筋から急速に熱を奪う。
17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:31:29.12 ID:vxIFxQsM0
どうしてこうなったんだろう。
こんなことがしたかったわけでもないのに。
18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:32:36.20 ID:vxIFxQsM0
その夜は、月が鮮明に見えた。
環境音すらも闇夜に吸い込まれてしまったかのように、辺りは静かだった。
19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:34:22.66 ID:vxIFxQsM0
物事を審美するときに、美しいという言葉を使うのは無粋であると、俺はそう思う。
必要なのは、その美しさがどのような類のものなのかであり、それこそ美しいという言葉を用いずに、いかに美しいかを批評するかが有意であると、俺は考えていた。
20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:36:10.54 ID:vxIFxQsM0
のあ「……貴方」
永遠とも感じられる沈黙を破って、彼女が口を開いた。温度を感じさせないその表情に見据えられて、我に返る。
21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:38:15.55 ID:vxIFxQsM0
反射的に手を目元に持っていくと、涙が一筋、頬を伝っている。
実際に触って確かめるまでもなく、視界の滲みから泣いていることなんてわかりきっている。
22: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:39:49.89 ID:vxIFxQsM0
P「星でも見ていたんだろ? 邪魔して悪かったよ」
そう言って彼女の隣を通り過ぎる。
23: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:40:51.07 ID:vxIFxQsM0
ぼうっと橙の照明が一つ灯る外観の建物の、無骨な木製の扉を引くと、店内も橙の光に満ちていた。
最初に彼女がカウンターに腰掛けて、遅れて俺がその隣に腰掛ける。
店には、客はおろか、店員すらいないようだった。
24: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:44:53.74 ID:vxIFxQsM0
どうして彼女は、俺をここに連れてきたのか。
P「なあ」
海の底のような心地よさに沈む店で、二人。
25: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:49:20.97 ID:vxIFxQsM0
P「……アイドルの、プロデューサーをしているんだ、俺」
それは、俺が傷つけたアイドルの話だった。
26: ◆K5gei8GTyk[saga]
2016/03/25(金) 00:50:54.19 ID:vxIFxQsM0
P「……担当しているアイドルをトップアイドルにするために、無理を強い続けてしまった」
なんとかそれは、声になった。
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