15: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:05:58.30 ID:WOjo7pAA0
空になった二つのカップと、黄色のチューリップが乗ったテーブル。
Pさんは会計を済ませるため、スーツケースを引いて先にレジへと向かっている。
椅子を引いて立ちあがろうとした時、カップの奥底に、何か文字が刻まれている事に気がついた。
16: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:07:23.07 ID:WOjo7pAA0
それからは何をするでもなく、ただ街中を歩いた。
一つ買い物をするだけでも、一人かそうでないかで時間の過ぎ方は全然違って。
私がいいなと思った服と、Pさんがそう思った服が実は一緒で、お互いに笑いあったりもした。
17: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:09:15.41 ID:WOjo7pAA0
空いた右手でポシェットから、予め用意してあった押し花の栞を一つ、取りだす。
飾られているのは、ナズナの花。
「Pさん」
18: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:12:49.45 ID:WOjo7pAA0
何度も練習した笑顔を貼りつけて、
悲しさなんて、とうに忘れて。
私は両手で大事に持ったナズナの栞を、彼に向かって差し出した。
19: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:13:50.73 ID:WOjo7pAA0
「だけど、気持ちを伝えてくれたのは―――」
と、ここで余計な事を離そうとするPさんの口に、1歩踏み込んで、そっと栞を寄せる。
そんな言葉が聞きたくて、私はここに来たんじゃないから。
20: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:15:11.16 ID:WOjo7pAA0
そしてまた春が来て。
庭に植えたジャノメエリカは、見事な花を咲かせて、私の部屋を見守っている。
新調した机の上には、新調する前から変わらず、「元気でね」とだけ書かれた便箋がペンと一緒に置かれている。
21: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:16:37.92 ID:WOjo7pAA0
ぽつり呟いて椅子に座り、アイドルを引退する時、事務所のみんなから送られたオルゴールを開く。
鳴り始めたのは、私のためだけに綴られた楽曲。
この曲のタイトルをつけた人は、どんな思いでこの名前をつけたんだろう。
22: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:18:09.12 ID:WOjo7pAA0
「ご、ごめん待たせた?」
「うん、待った」
駅前の花屋の前、入口から飛び出した店員さんに向かって不機嫌そうな表情を見せる。
23: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:20:00.81 ID:WOjo7pAA0
終わりです。
今回参考にいたしました曲は、倉橋ヨエコさんの「桜道」です。
是非、興味を持った方はお聞きになってください。
24: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 20:21:02.74 ID:WOjo7pAA0
それともう一つ。物語内に散りばめた花にも、意味を持たせたつもりです。
お暇があれば、一つ一つ確認しながらお読みください。
25:名無しNIPPER[sage]
2016/03/31(木) 20:52:07.87 ID:N09NuTBB0
乙 夕美らしさが出ててよかった
26Res/14.24 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。