過去ログ - モバP「二兎追い人の栞」
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10: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:11:05.01 ID:qn31rgISo
『久しぶりに読んでみるかな……。うん、そうしよう』

 思い立てば、それをちゃぶ台の上へと置いた。ちょうど、三部作の一作目、その一巻だったから、というのもある。これが別の巻だったら、別の本を選んでいたかもしれない。

 やがて、かれこれ五年ほど酷使している、型落ちもいいところのノートパソコンを開いて、起動ボタンを押した。四色窓のアイコンが表示され、かりかり、とハードディスクが回転する音が聞こえる。

 その間、特にすることもないから、コーヒーでも沸かそうかと思って、キッチンへと向かう。電気ケトルに水を入れてスイッチを入れれば、傍の缶から安物のインスタントコーヒーの粉をカップへと放り込んだ。

 もう、こんな生活が七年。部屋に引きこもって、ひたすら読書とプログラミングばかりやっていた二年を含めれば、最後に学校という場所へ行ってから九年。

 脱引きこもりをしてから最初の頃は辛かったけれども、今ではもう慣れてしまった。年々、人間としての感覚を失って行った気もするけど。人間の慣れとは、凄いものなのだ。

 ……そんな感傷にも近いことを考えていた僕は、電気ケトルの上げるブザー音で意識を取り戻した。すぐにカップの中へとお湯を注げば、砂糖も、ミルクも入れることなく口元へと運んで。ずず、とすする。

 口腔に広がる、安っぽい苦味と焼けるような熱さが、すでにはっきりとしていた目を余計に覚ましてくれる。それから、ぐっと飲み込んだコーヒーが食堂を流れ落ちて、そして胃へと入り込む。

 刹那的に体が熱を発し始め、まるで発電でも始めたかのように体の随所へと熱が送られる。あれほど冷たかった腕も、足も、しばらく暖房に当たったかのように暖かく感じる。

 こうしてみると、僕はどうにも変温動物か何からしい。もちろん生物学的にはおかしなことだしあり得ないのだけれど、そう自分を疑いたくなるぐらいにはなんだか体温の上下が激しい気がする。

 何か飲んだり、食べたりするだけですぐに体が暖かくなるし、放っておくと酷く冷たくなる。今朝起きた時、機械みたいに冷たかった腕がその証左になるだろうか。



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