過去ログ - モバP「二兎追い人の栞」
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11: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:11:32.51 ID:qn31rgISo
(まるで、命を燃料にして動くロボットみたいだ)

 そんな風に苦笑を一つ零してコーヒーを飲み干せば、ちゃぶ台の前へと戻って。手短に着替えを済ませた。時間的には明らかに早いが、本を読みながら少し散歩をしようと思っていた。

 この時間なら人通りは少ないし、歩き読みができるだろう。褒められた行為ではないが、体を動かしながら本を読めるのだし、ましてや誰かに迷惑がかかるわけでもない。
以下略



12: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:11:59.36 ID:qn31rgISo
 拾ってみれば、何のことはない。ただの紙片だ。そういえば、何度も読んだ作品ではあったが、上京してから読んだ覚えは無かった。中古屋で買ったはいいものの、後に回したのだろう。

 だからきっと、この紙片は、前の持ち主が挟んでいた栞。ふ、と少し鼻で笑えば、くしゃりと紙片を丸めて、ゴミ箱へと投げる。それは、こつんとフチに当たったが、中に入ることはなくて。部屋の隅にころりと転がった。

『あー、惜しい。はずれか。まあ帰ってからでいいね』
以下略



13: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:12:25.56 ID:qn31rgISo
□ ―― □ ―― □


 指がかじかんでいた。それでも、読書の手は止まらない。ちょうどいい場面だったからだ。主人公を追いかける追手がとうとう旅の仲間を捕捉し、小高い丘の上の遺跡で対峙する。

以下略



14: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:12:58.59 ID:qn31rgISo
『ん……?』

 それだけの価値はきっと、あったのかもしれない。もちろん、なかったのかもしれないし、価値で測るようなものでもなかったのだろうけれど。そこに居たのは、一つの人影。

 いや、人影なのだろうか。酷く角ばっていて、到底人には見えない。とうとうここまで視力が落ちたか、なんて思って眼鏡をはずし、息を吐きかけてから安物の不織布で拭う。
以下略



15: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:13:26.30 ID:qn31rgISo
「……あっ」

 短い声。それはまさしく、『あっという間』の出来事だった。声が聞こえて、それで目線を落としかけた顔が、自分ではない何かの手によって捻じ曲げられるが如く、そちらへと向く。

 すべてがゆっくりと見えた。分厚い本が七、八冊はあるだろう、積み上げられた本の一番上から、丁寧に一冊ずつ。綺麗な放物線を描いて宙へと舞う本。表紙に挟まれた白いページがパラパラとめくれて、地面へと落ちていく。
以下略



16: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:14:01.30 ID:qn31rgISo
「……す、みません」

 その女性――とても清楚で、大人しい、ともすれば内向的すぎるのでは、という印象を抱かせる彼女は、今にも消え入りそうな声でそう言った。……おそらくそういったはずだ、僕の聞き違いでなければ。

 あまり自信が持てないのは、それほど小さな声だったからで。僕も今は本を拾うのに気を割いていたせいもあって確信を持てず、返答に窮した結果。
以下略



17: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:14:39.62 ID:qn31rgISo
『今読んでる本がまるっきり、同じ物なもので。……それにしても、凄い、古そうですね、この本』

「……はい。……不要だとのことで、買い取りに。何度も読んだのですが……もう売っていない版だと、聞いて。売り物ですが……折角ですし、読んでみようと思って」

 彼女はそう、答えてくれた。蚊の鳴くような声には相違なかったけれども、どこか先ほどよりも声が大きかった気が、しないでもない。僕は思わず少し笑って、
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18: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:15:27.62 ID:qn31rgISo
(『運びますよ』ぐらい、気の利いたことを言えばよかったかな……)

 そんな、僅かな後悔を振り払うようにして、僕は自分の座っていたベンチへと戻る。置き捨てられる様にあった自分の本を手に取れば、ぽんぽんと表紙を手ではたいて。

 少し、早い時間だけれど、出版社へと向かおう。そう思って、ふう、と息を吐き、踵を返した瞬間だった。
以下略



19: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:15:54.43 ID:qn31rgISo
『……はっ』

 自嘲するかのように、僕は鼻で笑って頭を振って、彼女の姿を頭から追い出そうとする。だが、何度そうやっても、僕の頭のスクリーンには彼女の姿が映ったままで。

 僕はゆっくりと手元の本を開いた。どこまで、読んだものだったっけな。そう思っても、なかなかその場面を見つけ出すことが出来ない。
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20: ◆m03zzdT6fs[sage saga]
2016/04/10(日) 21:19:16.86 ID:qn31rgISo
本日の更新は以上です。次回の更新は一週以内に行う予定です。
スケジュールの調整はある程度出来ているので、完走までお付き合いいただければ幸いです。
ありがとうございました。

>>8
以下略



21:名無しNIPPER[sage]
2016/04/10(日) 21:35:18.42 ID:TPzUvYjy0
このシリーズ好きで1作目からずっと読んでたから再開してくれたのはとても嬉しいです
次回の更新を楽しみに待ってます


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