145: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/11(水) 04:45:09.64 ID:B4TJufEpo
「……お返事が、頂けるものと思っていたのに」
そんな文香さんのつぶやきで、何もかも合点がいく。
(馬鹿、あーもう、この馬鹿野郎め!)
何のことはない、聞き違いなどではなかったのだ。可能なら自分を本気で殴りたい。いや、殴ろうと思えばいくらでも殴れるのだろうけれど、ここでするべきことはそうじゃない!
『――文香さんっ!』
僕は腹の底から声を出した。一瞬、文香さんがびくりと体を震わせる。驚かせてしまったのかもしれない。けれど、もう止めることはしない。
腹を決めた。ああ、そうとも。もう一度”二兎追い人”になってやる。今更増えたところで、これまでと変わらない。今までも、二兎追い人だったのだ。
ただ内実は違う。偽りの兎を二匹追うのではない。真なる兎を二匹追う、本当の”二兎追い人”。
『ずっと、自意識過剰と思ってました。僕の聞き違いだって。そんなのあり得ないって。でも……もう、言い訳はしません』
すう、と息を吸い込んで。鳴り響く心臓は、今や早鐘どころの話ではない。機関銃のように、重々しい連打音を生み出している。
そうだ、言え。ここでやめるな、追うと決めたのだろう――!
『――僕も、文香さんのことが好きです。でも、今の僕じゃ、応えられない。文香さんに相応しい男じゃないから。だから、だから……っ』
唇が乾燥している。口の中もカラカラだ。唾液が出てこない。舌が歯にこびり付きそうになる。でも、言わなきゃ。僕は言わなきゃならないんだ。
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