31:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:40:25.11 ID:1EMEuCfU0
返事がない。
私の言葉は部屋の暗がりに、ただ吸い込まれていくだけだった。部屋のあちこちを探し回ってみた。どこにもいない。
ひょっとして、本当にあの女とどこかに出ていってしまったのかしら。
32:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:41:04.52 ID:1EMEuCfU0
暗いところにいても仕方がないから電気をつけた。部屋の中は私が家を出る前と寸分変わらない光景だった。
ただあいつがいないだけで。
呆然として床にへたりこんだ。出てくるのは後悔の言葉ばかり。
33:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:42:40.29 ID:1EMEuCfU0
ローボードの上の時計がこちこちと時を刻んでる。
静けさの中のただ一つの音。
15分待った。
34:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:43:14.13 ID:1EMEuCfU0
出たものの、あいつが今どこにいるのか、思い当たる場所はなかった。
あいつはどうしているのだろうか。
想像して見る。
35:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:45:16.12 ID:1EMEuCfU0
あいつがあの女の部屋にいる、という想像が働いて、いやなシーンを思い浮かべてしまった。
いけない、そんなことを考えていては。
あの女のところに乗り込もうか。そう考えて、気付いた。
36:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:47:56.44 ID:1EMEuCfU0
とりあえず、駅前の思い当たる場所を探そう。
私は駅の方角に向かって歩き始めた。
駅前で、いつも二人で行く店を中心に探して回る。
37:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:48:25.95 ID:1EMEuCfU0
雑踏の中にあいつの姿を探して、誰かに肩をぶつけるたびに謝りながら、ふらふらと私は店から店へと探し続けた。
寒空の下、足が冷え、口から吐く息は白くなって人混みに消えて行く。
どこというあてもなく、さ迷い続ける私に、風の音だけが寄り添っていた。
38:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:49:21.08 ID:1EMEuCfU0
いない。
あいつはどこにいるのよ。
あいつはいま何をしてるのよ。
39:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:50:05.73 ID:1EMEuCfU0
駅近くのビルを回り込んで来た風が私の身体に吹き付ける。
寒い。とても寒い。凍えそうなほど。
ポケットにいれていた手を出して、こすりあわせてみる。
40:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:51:00.39 ID:1EMEuCfU0
ばさ、という音がして屋根にたまった雪が滑り落ちた。
その音を引きがねのようにして、ホームのすぐ側にある踏切の警報機が、かんかんと鳴りだした。
明滅する光が赤く視界の端に映る。
41:名無しNIPPER[sage]
2016/05/05(木) 00:53:33.49 ID:1EMEuCfU0
通りすぎる人の一人一人をじっと見る。
いるかなと期待しながら。
きっといるに違いないと思いながら。
59Res/31.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。