過去ログ - 開かない扉の前で
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803:名無しNIPPER[saga]
2017/10/24(火) 00:45:00.16 ID:IXxsBwaSo

 誰かに話しかけるような、ざくろの言葉の意味はわからない。
 わたしは、静かにケイくんの手をとった。

「お兄ちゃんが、この世界のお兄ちゃんを刺した理由、なんとなく分かる気がするの」

「……」

「わたしも穂海に、どうかしたら同じことをしたかもしれない、って」

「愛奈」

「お兄ちゃんが誰かを傷つけることをするなんて、思ってもみなかった。
 たとえ、違う世界の自分自身でも。でも、それはたしかなことなんだよね」

「……」

「ねえ、やっぱりわたしたちは、ものすごく勝手な生き物なんだね。
 わたし、お兄ちゃんを轢いた人が憎いよ。過失だったとしても。
 でも、お兄ちゃんが誰かを刺したとしても、それを責める気にはどうしてもなれないの」

 わたしは―― そうだ。

「どうしてそんなことをしたの、って、そこまで追い詰められてたのに、どうしてわたしは何もできなかったの、って……。
 そんなふうにしか、どうしても思えない。正しさなんかより、わたしは、親しい誰かのことのほうが、きっと大事なんだ」

「……」

「わたし、間違ってるよね」

 そんな言葉で保険をかけるのも、やっぱり間違っているかもしれない。




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