5:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:34:40.22 ID:Mi73gln00
今回の役は新任の教師を運命の人として扱うような描写があり、まゆの心情を考えるとこの仕事は見送った方がいいのかもしれないと考えていた。しかしまゆはこの仕事を二つ返事で引き受けてくれた。
「どんな仕事でも、プロデューサーさんが持ってきてくれたなら、まゆは頑張りますから」
「大丈夫なのか? この役はほら……」
「うふふ、大丈夫ですよぉ。まゆは、恋する女の子のことは、よく分かっていますから。それにこんなチャンスないですよね?」
まゆはにこやかに答えてくれた。あまりのことに拍子抜けしてしまったが、今考えるとそれはまゆのことを全く分かっていないことでもあった。まゆは俺の持ってきた仕事を断らない。それはまゆがトップアイドルになるということしか考えていないということだった。
6:名無しNIPPER[sage]
2016/07/07(木) 20:34:52.16 ID:0eMXvCFKO
すまん、マジで申し訳ないんだが読みづらい
適度に改行とったほうがいい
7:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:35:17.87 ID:Mi73gln00
まゆの演技はうまかった。それが偽物なのか本物なのか分からないぐらいに。俺がよく知っている佐久間まゆがそこにいた。
8:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:35:51.87 ID:Mi73gln00
事務所のカフェは職員やアイドルが食事できるようにディナーもやっている。メニューは少ないが手頃な価格で美味しいと評判だった。
「初めて食事のもここでしたね」
まゆが嬉しそうにスープを掬った。エビのビスクの湯気は食欲をそそる匂いがした。
「そうだったかな」
「そうですよぉ」
9:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:36:26.88 ID:Mi73gln00
運ばれてきたパンをちぎってスープにつけた。
「今日のまゆの演技は良かった。本当に」
「うふふ、ありがとうございますね。まゆ、プロデューサーさんに褒めてもらえなかったの気がかりだったんですよぉ」
「でもさ……」
このことを切り出すのは気が進まなかった。俺の中のなにかが、俺とまゆの関係が壊れてしまいそうで。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:36:53.19 ID:Mi73gln00
「うふふ、お魚の料理好きです」
ナイフとフォークを持つまゆは様になっていて今度の撮影にまゆの食事をさせている所を使ってもいいと思った。アブラカレイのソテーにはニンニクがたくさん使ってあり、トーク番組に出る前に食べるのは口臭が気になることになっただろう。
「ここでの食事もいいものですね。プロデューサーさん」
「そうだな。美味しい」
結局食べ終わるまでその食事に熱中しているフリが出来た。
11:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:37:22.17 ID:Mi73gln00
食後にまゆは紅茶を俺はコーヒーを頼んだ。まゆとのゆっくりとした時間は心地よく、まゆに対する不安がどこかに行ってしまったような気がした。それを呼び戻したのはまゆだった。
「プロデューサーさんの不安ってなんだか分かる気がします」
「そうか?」
俺はマグカップを置いた。
「プロデューサーさんは演技するまゆが本当のまゆに見えたんでしょ?」
12:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:37:48.06 ID:Mi73gln00
水の中で息を吸っていて、空気が欲しいのに全く吸えない。
「アイより永遠の方が大事なのか?」
肺の中の空気を絞り出して最後の言葉を言おうといた。
「いいえ。まゆはプロデューサーさんと過ごす一時の方が大切だと思っています。それが密室ならという条件は付きますけど」
「アイドルに恋愛は御法度って訳か」
13:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:38:32.81 ID:Mi73gln00
「そうです。王子様がシンデレラを探したんです。ちょうどまゆが一目惚れしたあなたを探したみたいに」
まゆは俺のことを見ていた。愛おしい人を見つけた王子様のように。
「結局、シンデレラだったのはプロデューサーさんの方だったんですよぉ」
「じゃあ、よくある物語の続きみたいに俺は王子様の浮気に悩まされるってことだな」
皮肉を込めた言葉にまゆは微笑んだ。
14:名無しNIPPER[saga]
2016/07/07(木) 20:39:14.09 ID:Mi73gln00
まゆが主演のドラマは相当反響があった。見てる時間はなかったがすぐに次の仕事が舞い込んできて、まゆは女優としても有名になった。そしてその分俺の仕事も多くなった。引き受けるべきでない仕事をいつくか受けたのも事実だが。ようやく来た休日で家でごろごろしながらまゆのドラマを見ていた。画面越しのまゆはいじらしく、恋をして、少し抜けていて、それでいて愛する乙女だった。いつものまゆだった。俺の知っているまゆ。俺しか知らないはずのまゆがそこにいた。
「俺がシンデレラか……」
タバコを勢いよく灰皿に押しつけて、灰が宙に舞った。確かに今俺は灰かぶりだろう。少しだけ愉快な気分になった。
「そうか。じゃあ、王子様に選ばれるようにしないとな」
空になったタバコの箱は手の中で潰れた。
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