48: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:44:07.77 ID:JY7Hx0GQ0
彼女とて、事務員とはいえプロダクションの社員だ。潜在的に何かを持っている人材が欲しいのは当然だろう。だけど、私はそうではない。期待に添えないのだ。
私は彼女に背を向けたまま、言葉を紡ぐ。
のあ「……私は、この空が好き。何もない空が。それだけで、いいの。何も望まない……望めないわ」
49: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:45:52.58 ID:JY7Hx0GQ0
ちひろ「望遠鏡です。空を見上げるための。好きに使ってくださいとは言いましたが、できれば、星を見つけてくれたら嬉しいです」
黒いビニルのケースに入ったそれを私に差し出した彼女は、「もうしばらく鍵は開けておきますから」と言い残して、屋上から姿を消した。
50: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:46:56.24 ID:JY7Hx0GQ0
のあ「……っ、」
思わず、目を背けてしまった。
51: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:48:14.15 ID:JY7Hx0GQ0
彼女の言葉が、脳裏によみがえる――星を見つけてくれたら嬉しいです。
今の季節には、何の星が出ているのだろう。
夏の大三角は聞いたことがある。ベガと、デネブと、あと一つは何だっただろうか。
52: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:49:03.32 ID:JY7Hx0GQ0
ちひろ「あと二日だけ、探してみてください」
53: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:50:39.19 ID:JY7Hx0GQ0
のあ「卯月……」
卯月「のあさんも今日はレッスンでしたよね。次のステージ、一緒に立てるんですよね」
卯月「私、すっごく楽しみなんです。のあさんがみんなの前で歌うところ……」
54: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:51:36.26 ID:JY7Hx0GQ0
卯月「空を見ている人たちがどう考えるのかはわからないです。ないのと同じだよ、って言うかもしれません。一生懸命探してくれるのかもしれません」
卯月「でも、もしも私がその星だったなら……きっと、もっと頑張ろう、輝こうって思う気がします。ううん、思います」
55: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:52:20.47 ID:JY7Hx0GQ0
……格の違いを見せつけられた気がした。
同じ質問をされたとき、私はそれを自分に置き換えようなどとは思わなかった。自分を輝く星々に置き換えることなど。
56: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:53:03.80 ID:JY7Hx0GQ0
その日も。
57: ◆Ava4NvYPnY[saga]
2016/07/27(水) 00:54:24.22 ID:JY7Hx0GQ0
のあ「……何も、本当に何も、見つからなかったわ」
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