過去ログ - 海辺の町と赤く染められた国
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112: ◆sfGsB21laoBG
2016/08/09(火) 19:30:11.91 ID:kqsr3JY+0
私の視線は遥か向こう側の山の稜線へと向けられ、その一瞬を見逃すまいと思っていた。
轟音が更に大きくなった瞬間に山の稜線の先に大きな波が飛沫を上げて高く舞い上がる。
と、同時にその波は一気に山の麓へと流れて行った。
その大量の水は山を下り一気に盆地の森を飲み込んでいく。その後に続いてザーッ!と言う轟音が私の耳へと届いて来た。
音のズレがその光景を更に神秘的に魅せるのだ。
以下略



113: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:33:43.86 ID:kqsr3JY+0
だが、盆地の中では幾つもの渦を作り水がぶつかり合いこの広大な桶に水を溜め込んで行っていた。
泡立つ水の勢いが収まり、波が穏やかになると、この壮大なイベントも終了だ。
水は私の五メートル程の距離で穏やかな畝りを見せている。

「…おはようございます…」
以下略



114: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:35:44.60 ID:kqsr3JY+0
「あ、いや…見た事有るかも知れないけど…覚えてないな…」

その言葉に彼女も笑う。

「ゆっくり…思い出して下さい…慌てないで大丈夫ですよ…」
以下略



115: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:36:49.59 ID:kqsr3JY+0
「さあ…じゃ、朝食の支度をしますね」

彼女はそう言うと母屋の方へと歩き出した。母屋は私が寝泊まりしている離れの隣にあった。
大きさ的には余り変わらないが少し奥行きがある。

以下略



116: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:37:43.90 ID:Hr1jCc1H0
私がこの場所に辿り着いたのは一週間前の事だったらしい。
らしい、と言うのは私にその時の記憶が無い。
私は彼女の小屋があるこの崖の麓近くで倒れていた様だ。
勿論、水が溜まった盆地の下では無く小屋の後ろにある森の方だ。
私は丸二日寝ていて目が覚めたのは五日前。彼女はその間ずっと私を看病してくれていた。
以下略



117: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:39:44.66 ID:Hr1jCc1H0
何故、彼女の小屋の近くで倒れていたのか…そして、私自身の名前すら分からない。
そう、私は記憶を失っていた。
だから『水溜め』が珍しいのかどうなのかも分からない。ここが何処なのかも分からない。
そして、何故太陽が赤いのかも…分からなかった。
今現在、私が分かっているのは言葉と、数の数え方…
以下略



118: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:41:43.11 ID:Hr1jCc1H0
私はカボチャのスープを啜った。
そう言えば…。
私はナオの住む小屋を見回した。
確かにこんな人里離れた場所に一人で住んでいたら何の情報も入って来ないかもしれない。
そもそも何故、彼女はこんな人里離れた場所に一人で居るんだろう?
以下略



119: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:42:23.77 ID:Hr1jCc1H0
「…街の人が言うには」
「うん?」

ナオは手に付いたパン屑を手を叩いて払った。

以下略



120: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:43:25.01 ID:Hr1jCc1H0
世界が崩壊してるって…。何かの陰謀論的な響きに聞こえる。

「ナオは…街の人との交流があるんだ」
「はい。まあ交流と言う程じゃないんですが…二週間に一度買い出しに街に出かけるんです」
「それ以外は…?」
以下略



121: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:44:27.42 ID:Hr1jCc1H0
「あの水は…何なの?」
「山の向こうに有る海です」
「海?」
「はい、あの山の向こうに海が有って満潮になると、ああやって山を越えて、ここに水を溜めるんです」
「で、その水を…水門を開けて流し出す…と。そう言えば二日前にも君は出掛けたね」
以下略



122: ◆sfGsB21laoBG[sage]
2016/08/09(火) 19:45:07.15 ID:Hr1jCc1H0
「インカは、どうやらオーウェンを王に据えようと考えている様だ」

そうアビルが告げたのはウォルフの杯が空いた時だった。

「オーウェン…卿をですか?」
以下略



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