184:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:16:47.83 ID:Yv50vCTj0
 信一が膨らませ口を拭いて膨らませていた。 
 膨らんだ一個の浮翌輪を持ってチビが海に入って行くのを僕は砂浜で見つめる。 
 海からの風が心地よい。 
  
 …結局は。僕の中で何かが変わってしまったんだろうか? 
185:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:17:52.72 ID:Yv50vCTj0
 「何でパーカーを羽織ってんのよ…そんで何でホットパンツ履いてんの…」 
 「え?だって日焼けしちゃうし」 
 「脱げ」 
 「は?」 
 「大丈夫。日焼けしない様に俺が抱きつくから脱げ」 
186:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:18:39.16 ID:Yv50vCTj0
 「達矢兄ちゃん、何で倒れてるの?」 
 「達矢兄ちゃんはね、悪い悪魔に取り憑かれてるの。エロと言う悪魔にね」 
 「うわあ、じゃあ倒さないと」 
  
 奈緒の言葉にチビ達が一斉に僕に砂をかけ始めた。 
187:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:19:43.86 ID:Yv50vCTj0
 「タッチ!」 
 「いてっ!」 
  
 僕は信一の背中に思い切り手の平で紅葉模様を作る。 
  
188:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:21:16.10 ID:Yv50vCTj0
 水中が好きだ。 
 特に海の中は最高だと思う。 
  
 僕は水深二メートル位の場所に肺に入った空気を全て吐き出し海底の砂の上に座り込む。 
 ゴーグル越しに見る海中の世界は海上の世界とは全てが違って見えた。 
189:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:22:05.02 ID:Yv50vCTj0
 とにかく全てが心地よい。 
 耳からの音。 
 海面からの光。 
 仄暗い海の色。 
 目の前にある鼻からワカメを出した信一…。 
190:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:23:04.83 ID:Yv50vCTj0
 僕は海から上がると奈緒がいるパラソルの下に入った。 
  
 「ああ〜疲れた〜」 
  
 携帯を弄っている奈緒が黙ってコーラの入ったペットボトルを渡してきた。 
191:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:24:39.81 ID:Yv50vCTj0
 奈緒は僕をチラッと見ると携帯を弄るのを辞めそれを置いた。 
 海からの風が心地よい。 
 ここは余り海水浴客がいない。入り江になっていて波も穏やかで透明度も高く砂浜も綺麗だから超穴場スポットだ。 
 だが、やはり夏休みなのでそこそこに海水浴客がいた。 
  
192:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:25:31.15 ID:Yv50vCTj0
 「はあ?!怒ってねえよ!俺が怒ったらアメリカ人女性ばりに唾を吐いて話も聞かずに海の水飲むわ!」 
 「…何それ?」 
 「…何か雰囲気だ」 
  
 そう言って手元のコーラを飲んだ。そして吐き出した。 
193:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:26:18.04 ID:Yv50vCTj0
 「…うるせえよ」 
  
 僕は何故かその奈緒の姿から目を逸らしてしまった。 
  
 「でも…変わった…かな?」 
194:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:27:17.16 ID:Yv50vCTj0
 「中学入学した時にさ、クラスで中学生活の目標とか言わされたじゃない?」 
 「ああ…なんかあったな」 
 「あの時皆は『部活をがんばる』とか『勉強をがんばる』とか言ってたのに達矢一人だけ『水泳で日本一になります!』って言って皆が笑ったじゃん」 
 「マジで?俺そんなん言った?」 
 「言ったよ…皆があの瞬間にアンタの事を馬鹿って認識したらしいよ」 
195:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:28:03.82 ID:Yv50vCTj0
 「達矢の成績じゃ絶対に無理って言われてたもんね」 
 「合格発表の時の先生達の顔が面白かったわ」 
 「おばさんとおじさんが泣いてたよ」 
 「ウチの母ちゃんがアレで一瞬宗教に嵌り掛けたのがやばかった」 
 「奇跡って騒いでたもんね」 
196:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:29:56.67 ID:Yv50vCTj0
 「でも、凄いよホントに」 
  
 奈緒の言葉に僕は口を閉ざした。 
 凄い…か。 
 お前の父親の方が凄い…僕はそう言いかけていた。 
197:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:31:20.07 ID:Yv50vCTj0
 あの日から全てが遠い世界に行ってしまった気がする。 
 あの日までは、もう少し…あと少しで届くと思っていた。 
 でも、それは違ったんだ。 
 『限界』 
 その文字が頭に浮かんでしまっていた。 
198:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:32:12.73 ID:Yv50vCTj0
 「…辞めちゃうの?」 
 「…うん?」 
  
 奈緒が僕を見つめる。 
  
199:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:33:06.20 ID:Yv50vCTj0
 「…それでも…辞めちゃうの…?」 
 「別にその為に泳いでる訳じゃねーしな」 
  
 そう言った後に、これじゃあ辞めるって言ってるのと同じだと思った。 
 奈緒は軽く「ふーん」と呟くが僕は海を見ていたので彼女がどんな表情をしているのか分からなかった。 
200:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:33:52.19 ID:Yv50vCTj0
 「なあ」 
 「んー…」 
  
 僕の言葉に奈緒は顔を埋めたまま返事をする。 
  
201:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:34:36.30 ID:Yv50vCTj0
 「お前、携帯弄り過ぎだろ」 
 「うるさいなぁ、普通でしょ」 
 「お前の本体かよそれ」 
 「はあ?」 
 「いや、それでお前の行動を操ってるのかと」 
202:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:35:54.15 ID:Yv50vCTj0
 「良いから!はい立って!」 
  
 僕の腕を掴んで立たせた奈緒は僕の左手を握った。 
 僕の鼓動が少し音を立てる。 
  
203:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:36:37.30 ID:Yv50vCTj0
 「…なーに、これ?」 
  
 奈緒の囁きが僕の耳をくすぐった。 
  
 「ちょっと…抱き締めたかったから」 
204:1 ◆sfGsB21laoBG
2016/08/11(木) 18:37:53.29 ID:Yv50vCTj0
 第三章の途中ですが一旦切ります。 
 読んで下さっている方々ありがとうございます。 
  
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