過去ログ - 【モバマス】私「クラスメイト、一ノ瀬志希の話」
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◆TZIp3n.8lc
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2016/08/08(月) 21:08:07.06 ID:mFvc4esTo
試合が進み決勝戦になった。相手はバスケ部のキャプテンの弘美が率いる三組のチームだ。
「あの子と何かあったの?」
整列が終わって試合の準備をしていると志希が訊ねてきた。
以下略
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◆TZIp3n.8lc
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2016/08/08(月) 21:08:35.71 ID:mFvc4esTo
前半戦が終わると、私たちは意気消沈していた。鈴木さんなんて目に涙を浮かべている。これまでの試合、私たちは前半戦で必ずリードを作ってきた。運動の苦手な志希に交代しても勝てるように、という意気込みだった。
それほど点差はついていないものの、前半戦では手も足も出なかった。志希が練習して多少上手くなったと知っている私でも、覆せるようには思えなかった。
「ねーねー、みんなちょっといい?」
以下略
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◆TZIp3n.8lc
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2016/08/08(月) 21:09:16.63 ID:mFvc4esTo
しゅ、しゅ、と甘い香りが私たちの鼻先に漂う。ささくれだった心がほぐれていくようだった。
「いい匂い」
「でしょー? リラックスできる成分を多めにしてあるんだ」
以下略
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◆TZIp3n.8lc
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2016/08/08(月) 21:09:45.42 ID:mFvc4esTo
慌ただしく志希が香水を鞄に隠しに行って、戻ってきたらもう試合開始の時間だった。なんの解決策も見つからなかったけど、私たちの間に漂っていた負けムードは志希の香水で上書きされてしまったようだった。
だからといって簡単に勝てるものではない。相変わらず、私のマークはきついし、近藤さんは弘美に張り付かれている。前半と同じような流れがまた出来上がってしまっていた。
だけど、徐々に点差が縮まっていく。それは三組の交代した選手のせいもあった。明らかに動きが悪い。おそらく、弘美は志希が後半に出ることをわかっていて、前半に上手い人間を入れていたのだろう。
そして、もう一つ前半と違うのは志希の存在だった。鈴木さんはパスを貰ってもそれを上手くつなげることができなかったけど、志希は言われた通りに即座にパスを返すので相手もなかなか奪うことができない。そのパスも志希の観察眼のおかげか、得点に繋がることも少なくなかった。
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◆TZIp3n.8lc
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2016/08/08(月) 21:10:18.99 ID:mFvc4esTo
試合終盤になると相手の動きが悪くなっていた。このまま続けていても勝てるかどうかわからなくなったのだろう。前半の私たちがそうだったから、よくわかる。何か変えないといけないと思っていても解決策は思いつかない。点差はこちらが負けているのに、精神的には優位に立っている気がした。
弘美がシュートを外すと、近藤さんがリバウンドを取った。点差は二点差まで追いついていたが、もう時間に余裕はなかった。コートの中央にいた私にパスが飛んでくる。
同点にできれば、最後はフリースローで勝負を決めることになっている。まだ負けたくない。
だけどドリブルで数歩進めただけで、相手のディフェンスに阻まれる。ボールを叩きながら、二人と睨み合う。ちょっと運動神経がいい程度の私じゃ突破できない。
視界の端にボリュームのあるふわりとした長髪が映る。私は咄嗟にボールを彼女に投げた。
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◆TZIp3n.8lc
[saga]
2016/08/08(月) 21:10:46.95 ID:mFvc4esTo
勢いのついていたボールを綺麗に受け止めると志希はドリブルを始める。今日のはじめの頃と違い、その姿はさまになっていた。おぼつかないドリブルなんかじゃない。バスケ部に所属するヒロインそのものだ。
そんな彼女の前に弘美が立ちふさがる。弘美の口元には笑みが浮かんでいる。彼女は私が志希にパスを出すように仕向けていたのだ。志希がちらりと視線をスコアボードにやる。私もそれにつられて、スコアボードの残り時間を見る。もう時間は残されていない。
これが最後のプレーになるだろう。その瞬間に、一番奪いやすい人間にボールがいくようにしたのだ。奪えなかったとしても時間を使い潰せる勝算が最も高い相手を選んだのだ。
37
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◆TZIp3n.8lc
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2016/08/08(月) 21:11:16.96 ID:mFvc4esTo
志希はドリブルしながら弘美を抜こうとするけど、バスケ部員を簡単に抜けるはずもない。スリーポイントラインから中に入れさせてもらえず、外周をなぞるようにサイドに流れていく。
いつもあんなに飄々としている志希の顔にも焦りが浮かんでいる。珠のような汗がきらきらと輝きながら頬を伝っている。
「志希!」
以下略
38
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◆TZIp3n.8lc
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2016/08/08(月) 21:11:43.69 ID:mFvc4esTo
私の呼びかけに応えるように、志希が目だけをこちらに向けた。口元にはいつもの不敵な笑みを浮かべている。
くん、と志希の膝が曲がる。一切の淀みもなく、そこから身体が伸び上がる。決して高く跳んだわけではない。だけど、それで充分だった。美しいその流れそのままにボールが放物線を描いていく。反応が一瞬遅れた弘美が飛び上がって手を伸ばすけど、そのボールの軌跡に触れることは叶わない。
枝から離れたリンゴが地面に落ちるような、そんな当たり前のようにボールがゴールネットに吸い込まれる。
体育館の床にボールが落ちた音に、試合終了のブザーが重なる。
以下略
39
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◆TZIp3n.8lc
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2016/08/08(月) 21:12:12.77 ID:mFvc4esTo
あの一瞬のためにずっと志希は布石を打っていたのだ。
私が志希のことを呼んだ瞬間、弘美は私にボールを戻すことを警戒したのだ。その一瞬の隙に志希はシュートを決めたのだ。
ここまでの試合でボールが回ってきたらすぐにパスしていたのも、このフェイントのためだった。
最後にドリブルで突破しようとしたのは、タイムアップにシュートを合わせるため。
以下略
40
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◆TZIp3n.8lc
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2016/08/08(月) 21:12:45.35 ID:mFvc4esTo
高校を卒業してから二年が経った。大学も三年生となると就活の二文字がちらつきはじめて憂鬱になる。
志希は卒業してからはアイドル業に専念していた。大学で勉強をするのに年齢は関係ないという彼女らしい言葉を思い出す。
たまに深夜帯のアイドル専門番組に出ていただけだった彼女は、この二年の間にアイドルの階段を駆け上がっているようだった。退屈を嫌う志希らしいと思う。街なかに彼女の映る広告看板を見つけることも珍しくなくなった。ゴールデンタイムのバラエティに出たり、歌番組にユニットで呼ばれたりしている。クイズ番組には一度きり出ただけだ。正答率が百パーセントでは見ていて面白くないのだろう。
私は志望していた大学に入ることができた。志希と話していると自分も頭がよくなったような気がして、一つランクの上の大学も受けたがそちらは落ちてしまった。世の中はそううまくいかないらしい。
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