過去ログ - 水本ゆかり「清澄」
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24:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:35:50.77 ID:snFV7Fpq0

 ところが私は、そこから次の一歩を踏み出すことができなくなっていました。

 あの夜、お仕事の帰りに失くしてしまったもの。あの痛みの正体。
目に見えず、手の届かないところから、それが私に、ささやくようにこう尋ねるのです。
以下略



25:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:36:26.63 ID:snFV7Fpq0

          /

「できないのです」

以下略



26:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:36:59.78 ID:snFV7Fpq0

 制服のままでスタジオにいることも、

 片付けもせず膝に置いたフルートも、

以下略



27:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:37:33.74 ID:snFV7Fpq0

「全部って、何の」

「歌も、ダンスも……この前のレッスン、心配されてしまいました。体調が悪いのかと……でも、違うんです。ダメなんです。何かがはまらないのです」

以下略



28:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:38:07.12 ID:snFV7Fpq0

 吹いた音の膨らみ。

 発した声の届く先。

以下略



29:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:38:40.86 ID:snFV7Fpq0

 原因は、私の心でした。

 私の迷い。

以下略



30:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:39:14.24 ID:snFV7Fpq0

「ずっと、気付かない振りをしていましたが……本当は、怖かったんです。不安だったんです。毎日頑張って、必死にやって、でも自分がどこにいるのか、わからなくて……」

 震えを抑えるように、私は組んだ手指に力を込めました。

以下略



31:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:39:47.98 ID:snFV7Fpq0

「輝かなくちゃいけないって、まぶしくならなきゃいけないって、いつでもそう思っていたんです。アイドルなんだから、って。でもそうしたら、怖いのに、笑ったり、つらいのに、もっと努力するなんて言ったり……そんな風に、なっていたんです。気付いたら、わからなくなっていて……」

 理想だから、そうするのか。

以下略



32:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:40:21.47 ID:snFV7Fpq0



「ウソ、ついているみたいじゃないですか?」

以下略



33:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:40:55.45 ID:snFV7Fpq0

 しかし尋ねるなり、私は顔を伏せてしまいました。
私は確かに、彼の答えを、考えを聞きたかったのです。
けれど、まっすぐに私を見返す視線に、耐えることもまたできなかったのです。

以下略



34:名無しNIPPER[saga]
2016/10/18(火) 23:41:29.14 ID:snFV7Fpq0

 そしてそれが、真実かどうかは関係ないのです。

 水瓶に泥をひと匙加えると、中身を飲むことはもうできません。
わずかでも疑いを抱いた瞬間に、私の心も、一様に染まってしまったのです。
以下略



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