過去ログ - 【ペルソナ5 奥村春SS】春のまにまに
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13:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:03:56.20 ID:Y3tzY7X6o
 本当に途中までは幸せだった……恥ずかしくもあったけれど。夢でさえあれだけ焦るのに、もし実際に彼にあんなことをされてしまったら私はどうなってしまうんだろう。そんな具体性に欠ける妄想をしただけでまた顔に熱がこみ上げるのを感じた。

 まだ彼が地元に帰ってから一週間ちょっとしか経ってないのにあんな夢を見るなんて、どれだけ彼が恋しいんだろう。

 私、彼のことこんなに好きだったんだ。
以下略



14:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:04:45.46 ID:Y3tzY7X6o
 恩義。利益。見返り。なんと呼んでもいい。私の家庭環境を知った人たちやお父様の周囲にいた大人たちの行動の数々は、まだ子供だった私の認知を変え固めてしまうには余りあるものだった。

 もっとずっと幼かったときは違っていたはずなのに、いつの間にかそうなっていた。私が大きくなるにつれそれを感じ取れるようになったのか、それとも私以外の人たちが変わっていったのかは今となってはよくわからない。

 けれども成長とともに私の人付き合いの多くは目的ではなくなり、ただの手段になっていった。大過なく物事を終えるための儀式。通過儀礼。人付き合いというものにそれ以上の価値は見出だせない。
以下略



15:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:05:39.17 ID:Y3tzY7X6o
 それは、古い記憶の喫茶店。朗らかなお爺様と、穏やかにこだまする笑い声と、コーヒーの香り───。

「おはようございます。もう起きていらっしゃいますか?」

 部屋の外からの声にハッとなり、沈みかけた過去から現在に呼び戻された。今もなおこの家に残る、数少ない私以外の人のものだ。
以下略



16:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:06:34.94 ID:Y3tzY7X6o
「これが仕事ですので」

 返答もいつもと同じ台詞だった。何事にも動じない彼女のその姿は、夢にまで見た彼のことを思い起こさせた。

 でも、これもあと数日で区切りの日が訪れる。
以下略



17:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:07:22.38 ID:Y3tzY7X6o
 もちろん、大きな経営方針や実務に口を出せるほどの経験も知識も持ち合わせていないので、そのあたりは会社で信頼のおける新社長の高倉さんに一任している。当面、オクムラフーズで私が関わるのは新規展開するコーヒーチェーン店のプロジェクトだけだろう。

 進学に伴い、私はこの家を出て一人暮らしをすることを決めていた。思いきったが、ちゃんと考えて自分で下した決断だ。

 この家はもう私の自由を奪う鳥籠じゃない。そもそもこの家を出たところで奥村という名と無関係にはならないし、今のところそうするつもりもない。生活ではお手伝いの人もいるし、毎日を過ごすにあたり不満があるわけじゃない。
以下略



18:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:08:42.10 ID:Y3tzY7X6o


 喪失はあまりに唐突で、受け入れられないわけではなかったと思うけれど、感情が追い付いていなかったことをあとになって思い知った。

 それからは最高責任者をなくしても廻り続ける会社のこと、怪盗団のこと、今でも信じられないけどこの世界の運命のこと。私に背負える重さを遥かに越えたものが次々と降りかかり、ついていくのに必死で悲しみに暮れる暇はなかった。というより、別の何かに目を向け続けることで、無意識にそれを遠ざけようとしていた。
以下略



19:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:09:35.45 ID:Y3tzY7X6o
 私の無理や我が儘を聞いてもらい、融通も利かせてもらった。わかっていたことだけれど私はまだまだ子供で、奥村の娘なんだと実感した。
 
 そんな事情でお手伝いさんが毎日来るのは今月で最後になるが、この家自体は手放さず残したままにすることになっていた。その理由は、お父様の遺したものを全て整理しきれていないことがまず一つ。そしてもう一つは、お父様との記憶と、私の帰ってくる場所をなくしたくなかったから。

 私にとって、お父様の死は繋がりを断ち切るだけのものではなかった。不満を感じながらただ生きているだけでは見過ごしていた、見えずともそこに確かにあった絆を浮かび上がらせ、ある感情を呼び起こした。
以下略



20:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:10:22.74 ID:Y3tzY7X6o


 その日、私たちは馴染みあるいつもの場所に集まっていた。階下から香る深みのある独特の芳香が私の胸の高鳴りを少しだけ静めてくれる。

「つーか遅ぇなあいつら、何してんだ。ったくよー」
以下略



21:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:11:26.31 ID:Y3tzY7X6o
「そーだよー。てかわたしもそうじろうから聞いただけだし。他に誰か聞いてないの?」

 ずっとスマホを見つめていた双葉ちゃんが顔をあげ首を捻る。

「残念ながら俺は聞いていないぞ」
以下略



22:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:12:16.55 ID:Y3tzY7X6o
 さっきの返事を変に思われていないかと気が気でなかったがそれは自意識過剰で、みんな変わらず雑談を続けていたのでホッと胸を撫で下ろした。



 昨日双葉ちゃんの提案で、リーダーを除いた元怪盗団のグループチャットがひっそりと作られた。
以下略



23:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:12:59.42 ID:Y3tzY7X6o
 実のところ、こればかりはみんなも同じなのかどうかわからないけれど、私は毎日欠かさず彼と連絡を取り合っている。

 昨日も他愛もない些細なやり取りをしている最中、急に明日戻るからと連絡を貰っていた。サプライズでみんなで待とうと話し合う少し前のことだった。

『明日そっちに戻るんだけど、会えない?』
以下略



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