過去ログ - 提督「伊58の天国と地獄」
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1:名無しNIPPER
2016/12/02(金) 13:44:01.83 ID:GfbqtjEo0
もしこの世界に全人類があるのなら、きっと人類は滅亡したのだと伊58は考えている。

「人類は滅んだんでち。もう守るべきものは何もないでち。だから、休ませろでち」

提督はその言葉を一笑に付し、伊58に任務を言い渡す。伊58は海に出た。

冬の海は冷たい。寒さで死ぬことがないとはいえ、全身が凍えかじかみ震える。

水の中、直上から砲弾が降り注いでくる。間近を過ぎ去る砲弾の残した気泡に撫でられると、より一層震えが強くなった。

目標ポイントに到達すると、潜水艦用の小型ドラム缶に燃料を積み込み、元来た道を再び戻る。


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2:名無しNIPPER
2016/12/02(金) 13:44:53.77 ID:GfbqtjEo0
深海棲艦は帰路にある艦娘を攻撃しないので、砲弾に怯えることはない。しかし、荷物の燃料が重い。

ドラム缶に容量一杯の燃料を入れず、あえて空気を含ませ海上に浮かせて滑らすように運搬する水上艦と違い、潜水艦のドラム缶を運搬するには非常に体力を消耗する。

行きの砲撃は脆弱な潜水艦にとって恐怖だったが、帰りもまた潜水艦にとって重労働だった。
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:46:02.02 ID:GfbqtjEo0
シーシュポスの神話というのがある。罪を犯した巨人シーシュポスは神から大岩を山の頂上まで運ぶという罰を受ける。しかし、その大岩はひとたび山頂まで到達すると転がり落ちていき、シーシュポスは再びそれを運び上げなければならない。永遠の罰。

伊58はその運命をいつしか己に重ねみるようになっていた。果てなき消耗と積み重なる塵労。それらに理由を求めた伊58は些か宗教的な自罰性を精神の型にしていた。

そして、その自罰の観念は伊58という個人から世界全体へと拡大するのにそう時間は要さなかった。すなわち、この世界そのものが何らかの罰を与えるための監獄なのだ。
以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:47:14.30 ID:GfbqtjEo0
艦娘と深海棲艦。これら問題の存在。そもそも現代に蘇った軍艦としての艦娘なんて存在を受け入れる方がおかしいと伊58は思うのだ。

復活なんてことを受け入れるより、むしろ人類側こそが死した軍艦達のいる世界に降りてきたと考える方がまだ経済的ではないだろうか。

艦娘として人格じみたものが宿ったのは兵器に罪と罰を認めさせるためで、深海棲艦はある種罰刑の一形態なのではないか。
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:48:20.46 ID:GfbqtjEo0
でも、もしこの世界が罰を与えるために設計された地獄ならば、深海棲艦というのは本当に単純に人類を苦しませるためだけプログラムとなる。

深海棲艦が罰のための存在ならば、和解は不可能であるし、またその存在を根絶することも不可能だろう。

人間はまだ己が死後の世界にいることを知らずに和解や殲滅のための方策を練っているがそれは無駄な努力。もしかしたら人類への罰は根源的に全く無意味な努力を、そうと気づかずに、延々とさせられることにあるのかもしれない。
以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:49:35.68 ID:GfbqtjEo0
一般的に言えば、これは余り健常な精神的姿勢でないのだろう。それは伊58も自覚している。

しかし、鎮守府を去ったところで行く宛もない伊58にとって居場所はこの日常だけであり、このような思想が伊58に日々へと立ち向かうある種前向きな勇気を供給してくれるのならば、それを止める気は伊58にはない。

伊58にとってこの世界が地獄であることこそがやはり救済なのであった。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:50:38.02 ID:GfbqtjEo0
補給ポイントの小島に上陸し、小型ドラム缶を組み立てている時のこと。海中から浮上してきたかと思うと、波打ち際に座り込む一人の艦娘をみた。

アルビノに近い白っぽい金髪、白い肌。日本の艦娘ではない。艤装のブーツ部分が損傷したらしく、それを取り外そうと四苦八苦している。

ちらりと目があった。その艦娘が何を考えているのか読みとれなかったが、僅かに瞳が気弱に揺れ動いた気がするので、助けてやることにした。
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:51:43.43 ID:GfbqtjEo0
手を離すとその潜水艦娘は頭からどさりと砂浜に落ちた。そして、彼女は起きあがると、伊58が気づかなかった金具部分を外してこともなげに艤装を外した。

伊58は作業に戻った。後ろからあの艦娘もひょこひょこ付いてきた。目的は同じなのだろう。

伊58は手早く作業を終えると、再び海へ。何気なく振り返ると先ほどの艦娘が付いてきていた。
以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:53:03.11 ID:GfbqtjEo0
「地獄?」。意外と耳ざとく聞き返してきた。伊58は己の見解を述べてやった。少しでも生きやすい世界観を教えるというのは、親切心を満たした。宣教師とはこういう気分なのか。

「……ここは生前ではなく死後、形而上学的コペルニクス的転回? でも、認識されない世界の存在論的差異にどんな意味が……?」。考え込むタイプらしい。

二人は今海上に頭を出しゆっくりと航行している。帰還中は安全だから、ドラム缶を水上艦よろしく波に乗せて引っ張ることもできるが、残念ながら潜水艦用のドラム缶では、それをすると容量上の問題でノルマが達成できなくなる。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:54:16.67 ID:GfbqtjEo0
鎮守府に帰投すると伊58は拾った艦娘を提督に報告した。提督は彼女を一目みるなり、よくやったと伊58を誉めた。相当お気に召したようだ。

そのおかげで作業予定時刻を大幅に過ぎての帰投もお咎めなしだった。「じゃあ、今日はもう」と立ち去ろうとすると、提督は伊58に出撃命令を下した。

更に再び伊58は海に出た。必要が全く分からない。資材は鎮守府に有り余り、潜水艦の回収する資材もたかが知れている。それでもなおより多くを求める強欲が伊58には理解出来なかった。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:55:26.16 ID:GfbqtjEo0
「わあ! でっちー! でっちー!」。しかし、そんな伊58のニル・アドミラリな気性をもってしても、彼女の変化は注意をひかざるをえないものであった。

「おまえは誰でち」「えええ!? 忘れちゃったの!? でっち、ほら私だよぉー! ろーちゃんだよー!」「初対面でち」「ちょっとひどいかなーって!」

「ろーちゃんはでっちとお話したいですって! はい!」と言うので、二人は埠頭にやってきた。
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:57:14.76 ID:GfbqtjEo0
彼女曰く、私達はもともと何でも手に入るユートピアに住んでいたらしい。例えば、何らかのスイッチ一つで食物は調理され、建物はそびえ立つというような。

「だったらどうして今は戦争なんて過酷な状況になっているでち」。至極当然の質問だった。「それは人間が選んだからかな?」

ユートピアの余りの退屈さに人間は何か究極の自由を制限する規則を作り出したのではないか。スイッチ一つでおいしい料理や荘厳な建物が出来るかも知れないが、それより拙かろうが人間の手作業で、つまりより多くの苦労を含んだものの方が価値ありとするような。
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 13:59:16.72 ID:GfbqtjEo0
そして、この世を天国とみなすことは伊58の地獄と同様に現在の運命を正当化しうると彼女は言う。相違点はそれが贖罪という形をとるか娯楽という形をとるかというだけ。

「でも、罰は義務だけど、娯楽は権利でち。私は別に好きでこの境遇を選んだわけではないでち」「でっちは罪に覚えはないんでしょ? だったら別に覚えのない遊びへの選択も引き受けていいと思うけど」

伊58にとって地獄は宿命を仕方なしに引き受けるための観念装置であって、原理的にいつでも降りることができる遊戯的な天国はその代わりになりえなかった。
以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 14:00:58.57 ID:GfbqtjEo0
「問題はこの興醒め!」今まで熱中していたゲームに対してある日ふと突然それをただの電子データだと見なすときのような興醒め。

その興醒めは最初一本のゲームに対するだけで、すぐに別のゲームに熱中し出すかもしれない。しかし、またそこでも興醒めが起こり、次のゲームへ行くのなら。それを繰り返すのなら。

その過去が蓄積し、その興醒めがゲーム個体ではなく、種としてのゲームへの興醒めへと跳躍するのならば。
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2016/12/02(金) 14:02:52.78 ID:GfbqtjEo0

「――――でっち! でっち! プール! プール!」。ゴーヤは目を覚ました。呂500が寝ているゴーヤの上でぴょんぴょん跳ねている。

「邪魔でち。どくでち」。呂500を押しのけて起きあがった。蒸し暑い。開いた窓の網戸越しからセミの鳴き声が聞こえていた。

以下略



16:名無しNIPPER[sage]
2016/12/02(金) 16:39:03.92 ID:HhUvWpG+0

よくわからないけど熱中して読めた


17:名無しNIPPER[sage]
2016/12/02(金) 17:29:20.05 ID:b1yQ3+/go
なんというか、すげぇな


18:名無しNIPPER[sage]
2016/12/03(土) 23:33:50.42 ID:JK4app1p0



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