14:名無しNIPPER[saga]
2017/04/17(月) 13:51:36.55 ID:5I2Isvu00
事務所を裏口からそっと出ると、外に人だかりができていた。記者の人たちだろう。
私は顔を伏せながら横を通りすぎたが、誰にも声をかけられなかった。喜ぶべきか、かなしむべきか…。
足早に去ろうとすると、人だかりを遠目に眺めているおじさんがいた。なぜか小脇に日本酒の瓶を抱えている。そっと近くに行くと、少し腰が曲がっていることに気づいた。そして、日本酒を抱えている手にたこができいた。
「あの!」
15:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 13:56:07.02 ID:MEjdUG/c0
瓶には『くどき上手』、というラベルが貼られていた。調べて見ると、その名前には「すべての人の心を、溶かすように魅了する」、という意味が込められているそうだ。
ほんとうに、高垣さんらしいお酒だと思った。
16:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:02:16.50 ID:MEjdUG/c0
瓶には『くどき上手』、というラベルが貼られていた。調べて見ると、その名前には「すべての人の心を、溶かすように魅了する」、という意味が込められているそうだ。
ほんとうに、高垣さんらしいお酒だと思った。
17:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:05:58.33 ID:MEjdUG/c0
翌日、私はある人を探していた。受け取ったお酒は事務所のスタッフではなく、高垣さんと交友のあるアイドルに託す必要がある。なにせ、私は高垣さんの仏前がどこにあるのか全く知らない。高垣さんと交友があり、なおかつ私が会える人間は、あいさん1人だった。
私があいさんに出会ったのは、事務所に初めて入ったときのことだ。右も左もわからず、建物の中で迷っていた私を、あいさんが助けてくれた。
「どうしたんだい? 小さなホームズくん」
以前からあいさんの評判を聞いていたけれど、直接会って実感した。私の手を引いてくれたあいさんは、日本中の女性が夢中になるのもしょうがないくらい、かっこよくて、温かかった。
それから何度かレッスンで会ったり、一緒に昼食をとることもあった。探偵ドラマや推理小説について話すこともあった。私が一方的に話して、あいさんが優しく頷いてくれるだけだったけど、私は嬉しかった。
18:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 14:52:16.48 ID:MEjdUG/c0
私はそっと姿を消そうとしたが、その前にあいさんに気づかれてしまった。
「おや、都くんじゃないか…ひょっとして見ていたのかい?」
「いいえ、私はあいさん以外なにも見えません」
あいさんも、みんなと同じ笑い方をしているのが悲しくて、私は咄嗟にそんなことを言った。自分らしくない、キザなセリフだ。
「都くんは……いや、私になにか用かい?」
19:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 20:40:32.73 ID:MEjdUG/c0
川島さんが川端さんになっているじゃないか・・・・
20:名無しNIPPER[sage]
2017/04/18(火) 20:52:48.96 ID:MSVtGwQxo
お、康成ィ!
21:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 20:59:56.73 ID:MEjdUG/c0
川島さんは郊外に邸宅を構えていた。ご立派ですね、と言うと、
「売れ続けないと維持できないわ」
と笑った。私にとって久しぶりの、ただの笑顔だった。
リビングに入ると、部屋は様々な酒瓶で埋め尽くされており、足の踏み場もないほどだった。
「大変なことになっているね…」
22:名無しNIPPER[saga]
2017/04/18(火) 21:48:01.83 ID:MEjdUG/c0
あいさんと別れたあと、私はすぐさま都内の香水専門店に向かった。私の推理思考、いや、推理嗜好はもう止まれなかった。冒涜的でもいい、最低だっていい。真実が知りたい!
あのシーツに残された香りは、たしかにシトラスの香りだった。そして、高垣さんのプロデューサーはシトラスの香水を使っていたという。
シーツに香りが残る。その意味を想像すると、顔が熱くなった。
しかしシトラスの香水は、お店にあるだけでも何百種類もあり、あの香りが高垣さんのプロデューサーのものだとは断定できない。私の嗅覚も、真実を探り当てられるほど正確ではない。現に、香りの嗅ぎすぎで、テスターの前で頭痛を覚えているくらいだ。
23:名無しNIPPER[saga]
2017/04/19(水) 00:13:16.87 ID:t0Az6vrk0
私は生前の高垣さんについて、それとなしに尋ねて回るようになった。みんな、怪しみもせずよく話してくれた。
一番気にかかったのは、高垣さんが、担当の問題に関わらずプロデューサーとよく口論になっていたこと。内容は、『プロデューサーの香水の匂いがきつい』、『長時間の仕事はしたくない』、『歩いていける距離でも車で送ってほしい』など、高垣さんがプロデューサーに文句を言っているようなものだった。
しかし、それが高垣さんの死に直結するようなことだとは思えない。
仮に一件がプロデューサーによる他殺だったとして、動機になるほどのストレスを彼女から受けていたとは考えにくい。プロデューサーは346プロダクションに入社して、既に十年ちかく経っている。高垣さん以外にも担当する、あるいは担当したアイドルも数多くおり、ひどいワガママをいうアイドルは山ほどいただろう。
自殺にしても、まだ押しが弱いという印象がある。トップアイドルの重責と言っても、彼女はモデルを経てアイドルになった、比較的経歴の長い女性だ。それなり下積み時代もあり、不愉快な思いをすることも多かっただろう。アイドルは皆そうだが、高垣さんの場合は特に、人並みはずれてストレスに強かったと考えられる。多少自分の思い通りにならなかったと言って、死ぬことはないはずだ。
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