過去ログ - 伊織「証をちょうだい」
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5:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:45:41.31 ID:EiI7XmX40
それは、気温の調節機能を誰かがぶっ壊したとしか思えないほど寒かった暦の上ではちょうど春を迎える日のことだった。
その時の俺は目が回るほど忙しかった。
一年ほど前から始まった765プロの妹分といった「シアター」の本格的な可動、および三十七人の新しいアイドルの追加により、俺を含めプロデューサー一同はてんてこ舞いであった。
準備や覚悟は当然してきたものの、自分のこれまでの業務に加えて、新人プロデューサーの指導などの追加も相まって、一日一八時間フル稼働といったところだった。
そういう忙しい、何かを変える時にはまぁ悪徳な奴らもいたもので。伊織のゴシップが撮られたのだ。


6:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:46:30.50 ID:EiI7XmX40
男性アイドルユニットの一人で、彼もまた伊織と同じく財閥家の息子だ。
そのパーティの時、偶然会話しているところを写真に撮られたということだ。
彼らもまたプロである。二人だけで秘密の逢瀬をしていたわけではないのだが、写真を見ればまるで仲睦まじく愛を語り合っている美男美女にしか見えないものだ。いやはや舌を巻くしかない。
木っ端の雑誌とはいえゴシップを抜かれて、心のどこかに伊織を疑う気持ちがあったのだろう。会えなくて不安だったのが、それを加速させた。


7:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:46:56.35 ID:EiI7XmX40
そんなモヤモヤしたものを抱えながら、たまたま時間がとれたので伊織と昼飯を取っている時のことだった。
そう「DIAMOND」が流れたのだ。
伊織の電話の着信音。
ちらりと見えたディスプレイには、件のゴシップの相手の名前が載っていた。
「あら、恭二じゃない。どうしたのよ?」
以下略



8:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:47:23.64 ID:EiI7XmX40
今から考えるとあの時俺が感じていたものは嫉妬なのだと思う。だからと言っても仕方ないが。
話はまだ続いている。伊織はまだ携帯を置かない。 伊織の周囲だけ空間が切り取られている気がした。
「随分と仲よさげなんだな」
ムスッとした声で、俺は伊織にそう言った。
空気が氷点を割るのを自分でも感じた。
以下略



9:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:47:50.07 ID:EiI7XmX40
「あんた、ひょっとして私が浮気してるって思ってんの?」
「かもな」
「そんなことあるわけないでしょうが」
「それが本当かなんて分からないだろ」
「そんなに私の言うことが信じられない?」
以下略



10:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:48:19.77 ID:EiI7XmX40
喧嘩したのは初めてではないが、ここまで長引くのはたぶん出会ってから、今回はじめてだろう。
思い返してみると、 どう考えたって俺が悪い。
伊織を信じなかったばかりか、あんなゴシップを武器に殴りかかって。
素直に謝りにいくのが一番良いのだろうが、そのきっかけがつかめない。それを探しているうちに結局こんなに時間が経ってしまった。なんであいつの誕生日だってのに、俺は一人でバーにいる。


11:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:48:47.24 ID:EiI7XmX40
「お嬢さまもなかなか難しいところがありますからね」
空になったグラスにウィスキーを入れながら、新堂さんは俺にそう言った。
そう、何を隠そうこの店は新堂さんのお店なのである。
伊織の免許の取得、および運転の楽しさに目覚めて、時間に空きができた新堂さんは、かねてよりの願いだった自分の店をオープンし、社長や俺や小鳥さん、それにお酒の美味しさを知ったアイドルたちがいく行きつけの店となっているのだ。
「俺が悪いのわかってるんですよ。ただ謝ろうにも、あいつの前に行くとなんかこう気がひけるというか」
以下略



12:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:49:14.80 ID:EiI7XmX40
外からエンジン音が聞こえてきた。妙に聞き慣れた音であった。
扉が開き、入り口の階段を降りてくる足音が聞こえる。
「いらっしゃいませ」
「何よ、新堂。いきなり電話して、店に来てくれって」
そう新堂さんに声をかける、これまた聞き慣れた声がする。
以下略



13:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:49:40.18 ID:EiI7XmX40
十分ほど無言の空間があっただろうか。そんな静寂を破ったのは、なんと新堂さんであった。
「ややお嬢さま、プロデューサー。すいません」
「どうしたのよ?」
「いえ、この新堂ついうっかりお酒のストックを倉庫から持ってくるのを忘れておりまして。今から取りに行きたいのですが、留守を頼んでもよろしいでしょうか?」
「え、ええ。構いませんよ」
以下略



14:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:50:07.40 ID:EiI7XmX40
今までは新堂さんがいたから、なんら会話が無くとも大丈夫だったのだが、二人っきりの今は、有り体に言えばとても気まずい。
伊織も同じように感じたのか、さっきからチラチラとこちらに視線を感じる。なんなら時々目があっている。
他の客がいなくてよかった。いたら、この気まずさでお酒がまずくしてしまうところだ。
「最近どうだ?」
先に俺が耐えきれなくなり、まるで思春期の娘に声をかける父親のように聞いてしまった。
以下略



15:名無しNIPPER[sage]
2017/05/05(金) 23:50:52.80 ID:EiI7XmX40
ここで終わりかと本気でそう思った。
そう思ったらなぜだか涙が止まらなかった。
それは悔しさだったり、自分の馬鹿さ加減への呆れだったり、その他諸々混ざったものであった。
「なに泣いてんのよ」
あの日と同じように呆れた表情で伊織は俺にそう言ってきた。
以下略



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