936:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:09:51.03 ID:LnmL9/o10
直接言葉にして告げることなんて、私には到底できそうになかった。
だって、困らせるだけだと思ったから。
そんなことをしたって、何も変わらないことくらいわかっていたから。
937:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:11:09.46 ID:LnmL9/o10
「それで、描くことが嫌になっちゃったの?」
「……いえ、宝くじみたいなものですし、変わらないって半ば諦めてたので、そのこと自体についてはどうにか納得することにしました」
938:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:12:10.49 ID:LnmL9/o10
「小手先の技術を身につけて、自分の感覚を疎かにして……そういうことを続けてふと気付いたら、私は私のための絵なんて描けなくなっていました」
違う。こうじゃない。こうじゃない。私はそんなものを得てまで描きたくはない。
評価されたいわけじゃない。でも、評価されなければ、私の想いは形にはならない。意味を持たぬまま消えていく。
939:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:13:02.08 ID:LnmL9/o10
「でも、それは、きっと嫉妬とかも」
彼女の包み込むように柔らかな声音は、纏う雰囲気は、私の心を落ち着かせる。
他の人だったら、とっくに泣き出してしまっていた。彼女は何も言わないけれど、私の声はすでに震えていた。
940:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:13:48.83 ID:LnmL9/o10
言い終えて部長さんを見ると、彼女は私の触れていない方の拳をきゅっと胸元で握りしめて、何かを言いたげに瞑目していた。
「……たいしたこと、ないですよね」
941:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:15:16.32 ID:LnmL9/o10
「私さ、シノちゃんのこと好きだよ」
「……」
942:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:16:11.94 ID:LnmL9/o10
「きっとさ、シノちゃんが絵を描き続けてきたことだけは、仕方のないことじゃないと思う」
それは、初めに私が言った言葉。
退屈を紛らわすための代替可能なものだと嘯いてしまった。
943:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:16:54.68 ID:LnmL9/o10
「描きたいって気持ちさえあれば、どんなものだって描ける」
先の夜に部長さんから告げられた言葉を、そのまま復唱した。
944:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:17:23.12 ID:LnmL9/o10
訊ね返すやいなや、小さな吐息が耳をかすめる。
ぐっと身体全体にかかる力が強くなる。私だけでなく、多分彼女も緊張している。
「私のために、絵を描いてほしい。
945:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:18:11.27 ID:LnmL9/o10
「シノちゃんは自分の名前が嫌いって言ってたよね」
「はい」
946:名無しNIPPER[saga]
2018/01/10(水) 14:19:00.75 ID:LnmL9/o10
「こより先輩」と私は覚えてる限りで初めて彼女の名前を呼んだ。
「……ん」
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