1:名無しNIPPER[saga]
2018/12/01(土) 14:15:10.35 ID:3QcdtyFE0
「なんじゃこりゃ……」
玄関に置いてある巨大な段ボール箱を前に、俺は思わずそう呟かずにはいられなかった。
その箱は一見するとちょっとした冷蔵庫と見間違えるほど大きかった。縦の長さで言えば俺の胸のあたり、150pほどはあるだろうし、横幅も50p近くありそうだ。これをもし俺が見る前に隣人が見たとしたら大いに怪しんだであろう。
巨大なそれは、まるでこれを無視するなど許さないという風にドアの前にどっしり鎮座しており――もちろん、放置して家に入るという選択肢はないのだが、どこか送り主の性格が表れているような気がして、俺は苦笑いをするしかなかった。
心当たりは、ある。自然と、先程まで一緒にいたアイドルの言葉を思い出す。
『Pさん、まゆからプレゼントがありますから、今日は寄り道しないでまっすぐ帰ってくださいね』
高く、しかし甲高いわけではないとろけるような声で、まゆがそんなことを言っていたはずだった。今までに彼女から貰ったものは数知れない。手作りのお弁当、ペン、ネクタイ――大小はあるものの、まゆは俺が必要だと思っていたものをまるで心を読んでいるかのように送り、そのたびに満足げにほほ笑みかけてきた。今回もその類のものであるのは間違いなさそうだ。
2:名無しNIPPER[saga]
2018/12/01(土) 14:17:50.14 ID:3QcdtyFE0
これほどの物は記憶を探ったとしても出てこない。また、直接渡されなかったのもこれが初めてかもしれない。
担当アイドルになんで教えてもいない住所を把握されているのか、という少し恐れの入った疑問はいったんおいておくことにして、俺は家に入るべく行動に移ることにした。ひとまずドアを開けるために段ボールをずらそうとした……のだが、
3:名無しNIPPER[saga]
2018/12/01(土) 14:19:00.99 ID:3QcdtyFE0
一度汗を拭こうとハンカチを取り出す。ずいぶん昔に買った覚えのあるハンカチの肌触りは大分ざらついたもので、そういえば新しく買おうと少し前に思っていたことを思い出す。そんなことが一瞬頭の片隅に過ったが、頭の中はすぐに箱の中身のことでいっぱいになる。
はやる気持ちを抑えつつ、縦長の段ボール箱をゆっくりと横にする。これを勢いよく倒そうものならトラブルは避けられなそうだ。そして、中央に真っすぐと貼りついているテープに手を掛けた。1メートル以上あるそれを掴んでから一気に引っ張ると、ベリベリと気持ちのいい音をしながら勢いよくはがれていく。これまでの苦労のせいだろうか案外楽しい。
4:名無しNIPPER[saga]
2018/12/01(土) 14:20:11.65 ID:3QcdtyFE0
そうだ、あれを見たとき俺は「人間の目だ」と思ったのだ。
ダラダラと、いやな汗が体中から噴き出すのを感じる。心臓の音が急に耳に入るようになった。俺はしりもちをついた間抜けな姿勢のままどうにか深呼吸を重ねつつ、何かにすがるようにスマートフォンの電源を入れた。
5:名無しNIPPER[saga]
2018/12/01(土) 14:20:52.67 ID:3QcdtyFE0
何が入っていたとしても、たとえ人間らしき何かが入っていたとしても、こんなに健気に俺のためにしてくれるまゆからの贈り物じゃないか――――と、半ば自分に語り掛けるようにしながら、恐る恐る箱の梱包材をどけていく。そうして、プレゼントの全容を見たとき、俺は――
「くくくっ」
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