6:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/07(月) 22:29:30.88 ID:Qn8TGrOM0
実を言うとそんな考えなんてなかった。意識の問題なんてのは今なんとなくひねり出したこじつけに過ぎない。とにかく、俺はもうあの家で勉強など出来るわけがないのだ。どうやったって二乃との行為を思い出して悶々としてしまうし、あいつ自身、最近俺を焚きつけてあわよくばもう一度コトに及ぼうとしている節がある。見え透いた地雷を踏み抜くほど愚かではないつもりだ。
「それより五月、さっき一花は仕事だって言ったか?」
「ええ。今日は撮影があるみたいで学校はお休みです。放課後までにはなんとか終わりそうだと言っていたので、勉強会には間に合うかと」
「……そうか」
7:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/07(月) 22:30:49.52 ID:Qn8TGrOM0
残り僅かとなったパンを一気に口の中に放り込み噛み砕く。先日の意味深なメールの後、俺は未だに一花と一対一で話す機会を持てていない……というか、極力二人きりにならないように立ち回っていた。どんな話をしたところでロクな結末を迎えそうにないと分かっているからだ。それでもいつかは何とかしないといけないというのは理解できていても、先を思うと頭が痛い。幸い五月の反応からも分かる通り目撃情報の拡散は為されていないようだから現状一安心だが、近くアクションがあっても何の不思議もなかった。
それで言えば、三玖も三玖でだいぶ問題があった。
元から羞恥心や距離の取り方がどこかズレていたあいつだったが、あれっきり妙に近い。気づけば隣にいるし、酷い時は呼吸音がはっきり聞こえるくらいまでこちらに詰め寄ってくる。それに触発された二乃までチキンレースを始めようとするからなおのこと手に負えなくて、勉強会のたびに俺の胃痛がマッハなのだった。二人とも告白関連のことはなあなあの有耶無耶にしたままだから、絶妙に居心地が悪い。スキンシップの過剰な奴なんだという理解は、明確に示された好意の前にはあまりに無力だ。こんな状況の対処法などどこを調べても載っていないので自力で何とかする外なく、目下最大の悩みの種として俺の前に立ちはだかっている。
8:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/07(月) 22:31:57.87 ID:Qn8TGrOM0
「上杉君、最近ちゃんと眠れていますか?」
「どうした急に」
「ここのところずっと元気がないので。自分たちが負担になっているんじゃないかなと」
実際は、お前の知らないところで複雑化した人間関係を思って精神が摩耗しているだけなのだが。しかしわざわざこんな特大の爆弾情報を教えてやるわけにもいかず。
9:名無しNIPPER[sage]
2019/01/07(月) 23:49:31.03 ID:eITSZD1R0
期待
10:名無しNIPPER[sage]
2019/01/08(火) 01:16:44.88 ID:VCT3EeW/o
待ってたぞ
11:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/08(火) 01:19:50.78 ID:PhxU7pY/0
「来ないね、一花」
四葉の一声。
時計の針は図書館が閉じる三十分前を指しているのに、一花は未だ現れる気配がなかった。それどころか遅刻の連絡すらなく、今彼女がどこにいるのかも定かではない。
これまでも定刻にやってこれないという事態がなかったわけではないが、そういう時には必ず連絡が来ていたので、無断欠席は初めてのことになる。二乃なんかは、先ほどからシャーペンの芯を出したり引っ込めたりしてまるで落ち着きがない。おおかた事故か何かに遭遇したのではないかと憂慮しているのだろう。
12:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/08(火) 01:20:23.11 ID:PhxU7pY/0
緊張から解放されたように二乃が肩の力を抜き、その他の一同の雰囲気も心なしか弛緩した。この空気感の中で勉強が捗るとも思えなかったので今日は解散する旨を告げると、全員が用具を鞄にしまい始める。
その中で。
「フータロー、この後時間ある……?」
13:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/08(火) 01:20:51.87 ID:PhxU7pY/0
お前そんなリスキーな装備で姉妹の前に出てきたのかと叱責したくなるが、これに関しては熱に眩んだこの前の俺が明確に否定なり拒絶なりを示さなかったのが悪い。パンツを履いていない女の子に発情する性癖があるなんて思われては双方に何の得もないので、いずれ矯正しなくては。
「フータロー、今日はウチでご飯食べていけば?」
「なんだ突然」
「この調子だと一花は向こうで食べてきそうだし、そうしたら一人前余るじゃない」
14:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/08(火) 01:21:19.10 ID:PhxU7pY/0
夕飯の誘いは魅力的ではあったが、俺は今後二乃から提供される飲食物に対し、常に細心の注意を払わねばならない。四度目は流石に食らえないだろ……。
不満げに唇をつーんと突き出す二乃から目を逸らし、五月に軽く目配せをした。「昼の鬱憤は夜晴らせ」的な意味合いを込めて。当然分かってもらえるはずもないが、そこらへんは五つ子でやりくりしてもらおう。
「ほら、さっさと帰った帰った。ちゃんと自習もしとけよ」
15:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/08(火) 01:21:46.45 ID:PhxU7pY/0
室内にいると窓の外の変遷に疎くなってしまうようで、見ればとっぷり日が暮れていた。イマイチしっくり来ない位置に収まった鞄を身をよじってちょうどいいポジションに寄せ、重たい脚をとぼとぼと前に進めだす。一応後ろを確認してみるが当たり前にそこは無人で、後ろを尾けられているという事態はなさそうだった。
念のために周囲を更に複数回検分するが、やっぱり人の気配はしない。肺にこもった重たい感情を呼気として吐き出してから、取り出したケータイでリダイヤルした。
「なぜここまで手の込んだことを……」
『なんとなくかな?』
16:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/08(火) 01:22:14.69 ID:PhxU7pY/0
電子音に変換された肉声はどうにも無感情に聞こえて、何かに怯えたように腕に鳥肌が浮かび上がった。女優見習いの面目躍如、だろうか。
「一花」
『なに?』
「二人で話したいことってなんだよ」
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