29:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/07(日) 10:20:25.51 ID:4h98r15f0
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作業場の隣には、長テーブルと椅子が置かれた談話室のような部屋があり、俺はそこに案内された。
片付けを終えた透子が、作業場の電気を消し、部屋に入ってくる。その表情はどこか暗い。先ほどの失敗を引きずっているのかとも思ったが、理由はまた別にあった。
「……やなちゃんを泣かせちゃう」
やなちゃん――眼鏡の彼女、永宮が『さっちゃん』だったから、透子が言っているのはリボンの子のことだろう。
「未来が見えた?」
尋ねると、透子は沈んだ面持ちで頷いた。
俺に電話をしてから今までの間に、透子は単独で《未来の欠片》を見たのだ。
しかし、それももっともだと、部屋に並ぶガラス製品の数々を見て、俺は思った。
「なるほど。透子のための媒体がガラスである理由はこれか」
「そうかも……」
俺にとって母さんのピアノがそうであるように、幼少から慣れ親しんでいるものが媒体になりやすいのだろう。これも《未来の欠片》を紐解くヒントになりそうだ。
そうして興味深く部屋を眺めていると、隣の作業場に明かりが灯った。そして――、
「あっ、お客さんだったの?」
中学生くらいのショートカットの少女が、ひょこりと扉から顔を出し、こんばんは、と明るく挨拶してくる。
「いつも姉がお世話になっております」
少女は透子の妹だった。かなり人懐っこい性格のようで、初対面の俺に臆する様子もない。それどころか、俺が何者なのか、透子とどういった関係なのか、好奇心に目を輝かせていた。
「今、お茶を――」
「大丈夫! 沖倉くんはもう帰るから!」
俺を接待しようとする妹さんを、透子は強引に部屋の外へ追い出す。そして姉妹の間で短い密談が交わされ、妹さんは工房を去り、透子は申し訳なさそうな顔で俺の前に戻ってくるのだった。
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