77:名無しNIPPER[saga sage]
2019/04/09(火) 20:33:42.74 ID:W+HAaMa50
<第7話 自転車>
少しずつ日が傾いていく。藍色と茜色が混じり合う空に、ひぐらしの声が溶けていく。
「今度、海、行こう」
その誘いは、透子には何気ない一言だったのかもしれないが、俺には新鮮に響いた。
海のある街に訪れたことは何度かある。
しかし、そこは休みにふらっと出掛けるような場所ではなかった。
大抵は、いつも遠くから潮騒に耳を傾けるだけだった。
「俺、波の音が、少しくすぐったい」
「えっ?」
透子はきょとんとしたが、俺の答えがイエスであることを察すると、柔らかに微笑んだ。
「そろそろ帰ろっか」
「ああ」
こんなに心安らかでいられたのは、いつ以来だろう。
友人とか、恋人とか、そんな明確な形にはなっていないけれど。
この日、少なくとも俺にとって、透子の存在は特別なものとなった。
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