何も無いロレンシア
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10: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:34:12.19 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※



 こうすればどうなるか予想できていた。

 背後で立ち上がる音に、手が届きやすいようにとやや前かがみで振り返る。

 予想通り、頬に衝撃がはしった。
 
 ああ、やはりこうなるんだ。

 自分に求められていること。自分がやりたいこと。自分が為すべきこと。

 肝心な時この三つはいつもバラバラで、どれか一つを選んでは、疎まれ、嫌われ、蔑まされ、憎まれる。それは助けた者からですら。

 怒りか、あるいは悔しさからか。その瞳を涙ぐませ、妹の方が俺を睨みあげている。

「なんで……なんで見逃したの!!」

 それは答えたくない問いだった。

 質問の意図を理解してはいたが、わざとはぐらかす。

「……俺が城主伯から受けた依頼は、盗賊団の壊滅と、生存者がいれば救出し、奪われた財宝を回収することだ。皆殺しじゃない」

「見逃す理由になっていない!!」

 女の言うとおりだ。ことさらに[ピーーー]必要は無い。だがそれ以上に見逃す理由が無い。

 人を[ピーーー]ことに忌避感があるのなら話は別だが、刀身を血で染めた俺がそれを言っても説得力は皆無だろう。

「……ひょっとして、同類だから見逃したの? そうね。貴方一目でマトモじゃないってわかるもの。今回は城主伯様の依頼だから助ける側だけど、アイツ等みたいなこと何度もやってるんでしょ?」

 酷い言いがかりだと感じた。

 しかし女の境遇を知った上で盗賊を見逃したんだ。あながち言いがかりとも言えないかもしれない。

 観念して本当のことを言おう。最も、理解してもらえないだろうが。

「アイツは……生きたいと言った」

「ええ、そうね! こんなに酷いことをしておいて、なんて虫がいい」

 襲い、奪い、謳歌する。そのクセまだ生きたいと言えるほど――

「奴は、人生を楽しんでいた。生きる理由があった」

「は……?」

「それが――――羨ましかった。だから見逃した」


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