何も無いロレンシア
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22: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:41:58.56 ID:zJUkddjZ0
「金額は十億。これを一ヶ月以内に標的を殺せた者に差し上げます。方法は問いませんし、情報は提供しますが指示は何も出しません。失敗しても真剣に取り組んだ結果であれば、一億を差し上げましょう」

「……ああ、なるほど。しかし十億だと?」

 確かにこの方法ならば標的の付近で惨劇はおきるだろうが、依頼人の命は守られる。現場が混沌となり、混乱に乗じて標的が逃げおおせる可能性もあるが。

 それにしても十億とは。金銭に興味が無い俺だが、実力に見合った報酬をもらったことは何度かある。十億というのは、俺がもらった報酬の中で最も高い金額の十倍以上だ。一生遊んで暮らせる。

「……俺と同等の実力者を既に四人集めたネットワークに加え金もあるようだが、なぜその標的とやらを自分たちでやらない? オマエは……オマエたちは何者だ?」

 自前の戦力が無いとは思えない。自前の戦力だけでは足りないから外部から補強するにしても、俺たちのような危険人物を五人も集め、挙げ句の果てに指示も出さずに制御しないとは何事か。

 金と手間をかけたうえで、不確実で危険な方法を取る理由とは。

「おや? お教えしなければ引き受けてはいただけませんか? これだけ興味を惹かれているのに?」

「素性を明かさない依頼人など……まあ俺に依頼を持ってくる奴には間々いるから、いいとしよう」

 ここで問うても煙に巻かれるか、あからさまな嘘を言われるだけだ。依頼を進めていくうちに真相は段々とわかってくるはずだ。ここは後の楽しみにさせてもらおう。

「で、さすがに標的は教えてもらえるんだろうな。金鵄の国の宰相か? それとも“チャイルドレディ”? はたまた“最強を許された者”か?」

 俺と同等の実力者を集めなければならない標的として、パッと思い浮かんだ重要人物と危険人物をあげる。どれも十億ですめば安すぎる大物たち。

 しかしシモンの答えは、予想の斜め上を行くものだった。

「貴方たちには一人の女性……そうですね、まだ少女と言ってもいいでしょう。彼女を殺していただきたいのです。名はマリア・アッシュベリー」

「……聞かない名だな。どこのどなた様で、何をやらかした?」

「何も」

「何も?」

 国の重鎮や大富豪、あるいは凶悪な犯罪者を想定していただけにその返答は拍子抜けで――より一層、興味を引き立たせるものだった。

「年齢は二十歳。誰かを殺したり傷つけたりなど“まだ”なく、誰に憎まれることも無い少女です」

「それなのに十億の額をかけられ、凶悪な実力者五人に命を狙われると?」

「ええ、なんとも不運な少女です」

 命を狙わせておきながらわざらとらしく、そして何とも軽くシモンは嘆いてみせる。

 しかし“まだ”とは、何とも意味深な表現だ。

「それで、引き受けて頂けますか?」

「……既に引き受けた、四人の名を教えてもらえるか」

「それは引き受けて頂いてからならば」


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