何も無いロレンシア
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23: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:42:39.36 ID:zJUkddjZ0
 ため息を一つつく。

 ほんの数日前に引き続き、また重要な選択肢を迫られた。

 依頼自体には強く興味を惹かれたが、何をしたわけでもない――もっとも、シモンの口ぶりからするとこれからしでかすかもしれないが――少女を[ピーーー]つもりにはなれなかった。

 しかしこの話に関わるには、依頼を引き受けなければならないだろう。

「前金はあるか?」

「お望みでしたら三千万用意しますが」

「いや、結構」

 前金が無いのなら、途中で依頼を破棄しようがある。まあ情報を提供してもらいながらという面が残るが、正体も明かさず前金を渡さない奴が相手なら構わないだろう。

「その依頼、引き受けさせてもらう」

「おお、ありがとうございます!」

 シモンは狐のような目をいっそう細め、女からすれば柔らかで甘い笑みを、しかし男と男についてよく知っている女からすれば胡散臭くて仕方のない笑みを浮かべる。

「ではお教えしましょう。彼女が潜む場所――っとと、その前に貴方の同僚の紹介でしたね」

 同僚ではなく競争相手ではないかと思ったが、そんなことわかった上でシモンは言っているので流す。

 それよりも、こんな奇妙な依頼を受けた愚かなくせに狡猾な、危険人物たちの名が重要だ。

 シモンは王に託宣を告げる神官のように、厳かに一礼してみせる。そして託宣とは往々にして、教会にとって一方的で有利なモノだ。

「“沸血”のシャルケ」

「“かぐわしき残滓”イヴ」

「“深緑”のアーソン」

「“血まみれの暴虐”フィアンマ」

「そして――“何も無い”ロレンシア」

 シモンは上体を起こし、悦に入った顔で両手を高々と掲げる。神の遣いであるという謙虚さを失い自らが神であると錯覚した、涜神者以上の冒涜的な姿がそこにあった。

「無垢なる少女、マリア・アッシュベリーを殺しなさい」


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