何も無いロレンシア
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24: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:43:50.50 ID:zJUkddjZ0
〜第一章 五つの贄〜





 狐目の男、シモン・マクナイトから依頼を受けてから三日が経つ。

 標的の女、マリア・アッシュベリーが潜むと教えられた山にたどり着いた。

 マリア殺害を引き受けたのは俺を含めて五人。

 “沸血”のシャルケ。
 
 “かぐわしき残滓”イヴ。

 “深緑”のアーソン。

 “血まみれの暴虐”フィアンマ。

 どいつも一度ならず耳にしたことがある実力者だ。そのうえ性質の悪いことに“沸血”のシャルケこそ武名で名高いが、他の三人、特に“深緑”のアーソンと“血まみれの暴虐”フィアンマは武名より悪名の方が遥かに上回る。

 もっとも、二人とも悪名について“何も無い”ロレンシアにとやかく言われたくはないだろうが。

 五人の中で依頼を引き受けたのは俺が最後だが、引き受けた場所の関係で出遅れてはいないとシモンが言っていた。ひょっとすると貴方が一番乗りかもしれないとも。

 これから踏み入ることとなる山を見上げる。標高はさほど高くない。千メートルほどだろうか。だが――

「ここに女が……それも一人でいるのか」

 標的は一人で仲間がおらず、この山に入って一週間以上が経つらしい。何か目的があるのかと尋ねたが、シモンは何も無いと答えた。

 一人で住むには山は過酷な環境だ。ましてや女一人など。しかも標的の女は、誰も人を傷つけたことが無いような奴だ。シモンは何も無いと言ったが、よほどの理由が無い限り、そんな無謀なことはしでかさないだろう。

「人目を避ける理由がある、か」

 理由ありなのは当然か。でなければ正体不明の連中が、凄腕の刺客を五人も送ったりはしない。いったいどんな女なのだろう。
 
「俺が一番乗りだといいが」

 そうでないと、せっかく興味がわいた女の顔すら拝めずに終わる。何せ――

「……ッ」

 大気に振動が奔る。山の中腹辺りで木が倒れ、土煙が起きるのが目に入った。ここからではどう急いでも十分はかかるだろう。

 離れていても伝わってくる圧倒的な闘気。戦いは今始まったばかりなのに木が倒れたというのは、初撃から全力をかけたか――あるいは木を倒すほどの威力が、様子見にすぎないということ。そしてこの闘気から考えるに、明らかに後者だ。

 もしこの一撃をただの女が受ければ――

「原型が残る死に方だといいが」

 望みが薄いことを悟りつつ俺は駆け出し――予想とはまるで違う結末を目の当たりにすることとなった。


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