25: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:44:40.77 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※
そこにたどり着いた時、土煙は未だに舞っているが戦闘の音は無く、パラパラと破片が零れ落ちる音がするだけだった。戦いは終わりこそしたが、終わって間もないことが見て取れる。
山の中でも緑が少なく、比較的平らで赤土な所だ。滑る足元をゆっくりと踏みしめながら、頬に熱気を感じる。
地面を見れば赤土であるにも関わらず踏込の跡がはっきりと、いくつも残っている。強力な踏込から繰り出される速さと威力のほどは、零れ落ちる音の方を見れば用意に想像できた。人の背丈ほどはあっただろう岩が砕け、その断面からポロポロと砂のように岩であったものが流れている。他にも目をやれば、倒れた木や大きく穴の開いた岩壁が次々と見られる。一対一ではなく、戦争でもあったかのような荒れようだ。
「……素手か」
破壊の痕を見るに、どれも素手の所業。そしてつい先ほどまで戦闘があったとはいえ、屋外の、それも風が吹きすさぶ山中なのに残っている熱気。これらに遠くからでも関わらず感じ取れた圧倒的な闘気を加えて考えると、シモンからの前情報が無くとも誰であったかわかるほど絞られる。
「“沸血”のシャルケか」
北方の森に出現した、体高三メートルを超す銀目の大鹿を退治したことで一躍名を上げた格闘家。特異な呼吸法を行うことで体内の熱を上昇させ、その熱を力に人外の破壊力と速さを誇るという。その流れた血から湯気が出ていたことから、沸血の名を冠することとなった。その男が――
風が吹き、舞っていた土煙が払われる。
そして鋼を人の形にかたどったような男の姿が現れた。
年齢は四十代半ば。背は低く、一六〇ほど。しかし小さいという感想は抱けなかった。それよりも、凝縮されているというイメージが先行するからだ。
大きく盛り上がった節々の筋肉は赤銅色で、鉄火場で鍛えられたと言われても冗談には聞こえないだろう。ただ太いだけでないことは形からも見て取れ、長い月日を雨風で削られてなお威風堂々とそびえる巨岩の如き趣きだ。恐らく体重は八〇を超える。
適当に自分で刈ったであろう髪はざんばらで白い。白髪となるには早い歳だが、常軌を逸した鍛錬が引き起こしてしまったことなのか。口元と顎にある豊かな髭もまた白かった。
そんな一目で武人だとわかる“沸血”のシャルケが岩壁に体を預けている。
いや、預けているという表現は間違いだった。
その鋼の肉体を岩壁にめり込ませ、首をダランとうなだれているのだから。
ポタポタと湯気が昇る血を口元から滴らせ、肩を上下することなく静まっている。
「誰かを殺したり傷つけたりなど“まだ”ない少女……ね」
シモン・マクナイトの言葉を思い出しながらつぶやく。“まだ”ない少女から、“まだなかった”少女へと変わったのだろうか。
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