26: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:45:23.88 ID:zJUkddjZ0
シャルケが少女以外にやられた可能性――特に競争相手である依頼を受けた他の三人を疑ってみたが、その線は薄い。
岩壁にめり込んでいる角度と外傷から推測するに、シャルケは強力な力、おそらくは打撃を胸部に与えられ十メートルほど吹き飛ばされた。八十キロを超すシャルケをそれだけ吹き飛ばすだけでとどまらず、岩壁にめり込ませる威力を出せる者が相手であった。そして他の三人はそれに該当しない。
“かぐわしき残滓”イヴならば、遠距離からの射殺ないしは背後から喉を掻き切る、又は毒殺。“深緑”のアーソンならば、全身が膨れ上がって死んでいるはず。そして“血まみれの暴虐”フィアンマならば、体に大穴が空き、酷ければ跡形も残らない死に方をしているはずだ。
より詳しい情報を得ようとシャルケに近づき、体に触れた時だった。
剣の柄に手を当て、全速力で振り返る。遮蔽物がろくにないこの空間で、十歩足らずの距離に女がいつの間にかいた。
「……俺は、どれぐらい経ってから気づけた?」
「二秒ほど。これほど早く気づかれたのは初めてです」
戦慄を覚える俺に対して、女は抑揚のない冷たい声で応じる。その二秒の間にコイツは俺に、どれだけのことができただろうか。攻撃の動作を取ったのならより早く気づけただろうが、背後を取られた上に先手を許したとあっては相当不利であったことは確かだ。
シモン・マクナイトのまるで理解できない出現の仕方とは違い、女のそれは俺の知識にある隠形の業だった。それにも関わらずシモン・マクナイト以上に俺に近づいたうえ、気づくのが一拍遅れてしまった。そんなことができる奴は、世界広しといえど一人のみ。
「“かぐわしき残滓”イヴ」
自然と漏れ出た俺の呟きに、女――“かぐわしき残滓”イヴ――は静かにうなずいて見せた。
美しい女だった。だがその美しさは、血で濡れた刃の切っ先の如き妖しさを伴ったものだった。
歳の頃は二十半ばで、背は一七〇を超えそうだ。女性として豊かな体が、動きやすい革鎧と余りの無い服に締め付けられ蠱惑的に強調されている。朝日に照らされる水面のような蒼く輝く髪は肩にかかる程度の長さで、赤土の大地に立つその姿は枯れた大地を潤す妖精にも思える。まあ妖精とは、残酷な面もあるものだが。
彼女が殺したと“確実”に言えるのは築港領の領主一人のみ。そして疑惑は数百に上る。というのも十年ほど前から奇怪な殺人が次々と起きるようになり、その共通点は物音一つ無く誰がいつ殺したかわからないことと、現場にはかぐわしい匂いのみが残されていたこと。
そして二年前、築港領の領主の殺害の容疑で捕まった女がいた。
それがイヴ・ヴィリンガム。
築港領の領主の殺害現場にもかぐわしい匂いが残されており、衛兵たちの尋問を受けると、これまでの数百に上る奇怪な殺人の犯人であることをほのめかした。被害者には貴族・僧侶・富豪などもいたため築港領の独断で処刑するわけにもいかず揉めているうちに、彼女は姿をくらませて今にいたる。
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