27: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:46:03.09 ID:zJUkddjZ0
「そういう貴方は“何も無い”ロレンシアですね。“深緑”のアーソンかとも思えましたが」
「その言葉は、俺と奴の両方に喧嘩を売っているぞ」
「その言葉は言いえて妙ですね。いくら“深緑”といえども、“何も無い”貴方と見間違えられたと聞けば不愉快でしょう。そして意外な発見です。“何も無い”貴方であっても、魔に心を呑まれたモノと同一視はされたくないのですね」
別に煽っているわけではなく、ただ淡々と思っていることを口にしているのだろう。悪意を感じられない。もっとも、それ以上に思いやりも感じられないが。
「ところで、シャルケをやったのはオマエか?」
「わかりきったことを訊くのですね。阿呆ですね。私の細腕でこんな芸当ができると少しでも考えたのですか?」
意外と毒のある言葉と共に、かぐわしい匂いが漂ってきた。マトモな男なら理性が揺らぐような香り――などと、生ぬるいものではないのだろう。“何も無い”俺だから他人事のように思えるが、恐らくこれは良い匂いだとか、好みだとかそんな次元ではないはず。鼻孔をくすぐるや否や脳内を鷲掴みにして下半身に強制的に熱を持たせるような、暴力的な匂い。
これが作られた匂いではないと気づき哀れに思う。この匂いが体質なのだとすれば、虫唾がはしる目にこれまで何度もあった事だろう。
「私の匂いを気にしないようですね。好感度マイナス一〇〇からマイナス七〇に修正しましょう」
「……どうも」
「ちなみに私は貴方からやや遅れて来たのですが……“沸血”のシャルケは手遅れですか?」
「オマエが妙なタイミングで来なければ間に合ったかもしれんな」
柄から手を離し、岩壁に体をめり込ませたままのシャルケを掴む。例え体を鍛えた人間であってもシャルケが受けた一撃の威力を想定すれば、心臓は破裂し背骨は砕け、即死は間違いない。だが鋼の肉体を誇るシャルケなら話は別だ。まだその体は火照っており、蘇生が間に合う可能性があった。
誰を相手にして、何があったのか。それは訊けるのならば本人に尋ねるのが一番いい。そしてイヴはそれを邪魔をするつもりはないようだ。
シャルケを岩壁から引き抜き、壁がもし崩壊しても巻き込まれない程度に離れたところにゆっくりと横たえる。さて、シャルケの分厚い胸ならば全力でやるぐらいがちょうどいいか。
「フッ……!」
肘を伸ばしきった状態で両手をシャルケの胸に当て、その胸が凹むほど強く瞬間的に力を加える。意識が無くとも強靭な肉体はすぐに手を押し返す。押し返してきた体をすぐにまた力を加え下に叩きつける。
「少し乱暴……いえ、この男にはこのぐらいがいいでしょう」
反動で上下するシャルケの頭部を守るため、イヴが膝を着いて両手を添える。そして心臓に衝撃を二十回ほど加えた時だった。
「ブフォッ……!」
呼吸が噴出した。手を止めて離れると、最初の呼吸と比べると弱々しいものの、ゆっくりと、そして途絶えることなく胸を上下し始める。やがてシャルケは、まぶしそうに瞼を開いた。
「おお……っ」
最初に目に入ったのは自分の頭を支える絶世の美女で――
「……おぉ」
次に俺に気がつき、一気に消沈した。
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