何も無いロレンシア
1- 20
28: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:46:37.86 ID:zJUkddjZ0
「あの世に片足をかけ、目覚めれば天国に来たと思いきや……若い癖に辛気臭い顔をした奴もおる。天国を見せた後に地獄に引きずり込む腹積もりか」

「……苦労して蘇生させた奴を、再び[ピーーー]というのは一興だろうか?」

「用済みになる前にそれをするのですか? しかねない貴方が言うと笑えないので慎みなさい」

 シャルケはまだ息を吹き返したばかりで意識が朦朧としているはずだ。しかし俺とイブのわずかだが十分な情報を含んだ言葉を耳にし状況を理解し、忌々しげに息を吐く。

「ふん……っ。“何も無い”ロレンシアと、“かぐわしき残滓”イヴか。一応命を救ってもらった礼は言おう」

「お礼を言う前に、手から頭をどかしてくれるかしら?」

「次は膝枕かの?」

「……匂いの効果はあるけれど、問題なく耐えている。けどスケベ親父はマイナス二〇」

 そう言ってイヴは目覚めたばかりの重傷のシャルケの頭を、ゴトンと地べたに落とす。結果として蘇生を開始する時間を遅らせた事といい、シャルケ暗殺も同時に請け負っていたら面白い。

「さてシャルケ。息は吹き返したものの、身動き一つ取れないとみた。ここで起きた事を正直に話すのならば、俺は何も危害を加えはしない」

「……気が進まんな」

 競争相手に情報を渡すこともさることながら、自分が敗れた戦いについて話すのだ。この豪傑が渋るのは当然だが、命には代えられないだろうと高をくくっていると。

「オマエたち……この依頼から降りてはくれんか」

「……何?」

「あの娘には、悪いことをした……そのうえ情報を与えたオマエたち二人を差し向けるなど、儂にはできん」

 シャルケが気にしていたのは依頼の達成でも己の矜持でもなく、マリア・アッシュベリー――標的の身の安全であった。

「残りの二人に言っても無駄だろうが……オマエたちは殺しを厭いはしないが、好みもしないだろう。金にも困っておらんはずだ。だがら、頼む」

 俺たちを騙すための演技とは思えない。人を騙すような器用さをこの男が持つとは思えないし、何より命までかかっているのだ。そしてシャルケから感じられるのは、命に代えてもという必死さと真摯であった。

「“沸血”のシャルケ。この男はどうだが知りませんが、私についてはおおむねそうです。しかしだからといって、はいそうですかと一度取りかかった仕事から降りるほどいい加減でもない。せめて貴方ほどの男がかばう理由を聞かせてもらう」

「理由は、言えん」

 イヴがやや角度を変えて情報を引き出そうとしたが、シャルケはかたくななままだった。体に聞こうにも、ついさっきまで心臓が止まっていた男が相手では加減が難しい。それこそ苦労して蘇生した奴を用済みになる前に殺してしまい、呆れ顔のイヴの毒舌が待ち構えることになる。

「[ピーーー]のならば殺せ……」

「おい……チッ」


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
83Res/189.22 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice