何も無いロレンシア
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4: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:30:06.54 ID:zJUkddjZ0
 木々をかき分け、開けた場所に出ると同時に頭を抱えて転がる。

 俺の突然の動きに驚く“奴”を、射線上から邪魔な俺がいなくなった仲間が次々と射ぬく――はずだった。

「…………は?」

 何も、起きなかった。

 風を切る矢の音も、“奴”の悲鳴も、仲間の歓声も無い。

 体が転がるのが終わったら、ただ激しい俺の息遣いの音しか残らない。

 恐る恐る来た道を振り返れば、そこには誰もいなかった。

「いなかった……のか?」

 にわかには信じられない。

 別に俺を追いかける姿や音を確認したわけではない。しかしそれなら、あの異常とも言えるプレッシャーはなんだったのか?

 答えを求めて仲間が潜んでいる茂みを振り返ろうとしたその時、風の流れが変わった。

 つい二日前に存分に堪能した、紅い匂いが鼻をつく。

 全力疾走で流れ出た熱い汗が、一瞬にして凍りついた。

 凍てついた体をぎこちなく振り返らせると、一拍遅れて茂みの方から赤黒い液体が流れ出てくる。

「あ――」

 阿呆のような声が自然とこぼれた。こらえようという気がほんの少しも起きずに、膝から力が抜けて草をへこませる。剣は手放していないがそんなもの、単に恐怖で硬直した手に引っかかっているだけにすぎない。

 そして――茂みから“奴”が現れ出でた。

 死を連想させる男だった。だが、死神ではない。恐ろしさなら匹敵するだろうが、きっと死神になら畏敬の念も覚えるだろう。

 だが“奴”にそんな高尚なモノは抱けない。

――侮蔑だ。


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