40: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:54:15.08 ID:zJUkddjZ0
「あ、あの! お願いです、待ってください!」
きびすを返そうとする俺を、マリアは懸命に呼び止めた。
「わけもわからず命を狙われて心細いのはわかるが、頼る相手を間違っているぞ」
彼女からすれば俺は味方に見えたことだろう。でも俺を味方にしようとした奴は、割り切った金の関係以外は全員悲惨な目にあってしまう。
「俺は夜の湖だったか。言いえて妙だな」
ふと、マリアが俺を表した言葉を思い出す。
「暗い暗い水の中は、何があるのかわからない。恐ろしい、なのに惹きつけられる。そして下手に探りを入れようものなら、水の中の得体の知れない化け物に飲み込まれてしまうんだからな」
「ち、違います! 私は、そんな意味では――」
「オマエの味方は、きっと白馬の王子様みたいな絵に描いたような存在だろうよ。断じて俺ではない」
特に考えなしに口にした言葉だったが、的を得ているような奇妙な感覚があった。まったく王子様は何をしているのだろうか。“沸血”のシャルケに襲われている時に駆け付けなかったせいで、よりによってお姫様は“何も無い”俺を味方だと錯覚してしまわれた。
「世も末だ」
自分のくだらない想像に思わず笑ってしまいながら、きびすを返して戻ろうとしたところだった。
「私は……マリア・アッシュベリーといいます」
俺をこの場にとどめるのは無理だと悟ったのか。残念さをにじませながら、彼女は穏やかに自分の名を告げた。
ああ、そういえば。彼女は俺が何者なのかまるで知らないんだった。
「俺はロレンシア。ロレンシアと名乗っている」
俺の微妙な言い方に彼女は小首をかしげたが、受け入れた。
「さようならロレンシアさん。そしてできればまた、お会いしましょう」
「……ああ、できればな」
彼女は咲き誇る花のような笑顔で別れと、再会を願う言葉を口にした。
親愛の笑みを向けられるのは初めてのことで、上手く答えることができなかった。
言葉だけではなく、本当にまた彼女と会わなければならないと思っている。だが、果たしてそれができるのか。そして、許されるのか――
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