何も無いロレンシア
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42: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:55:29.60 ID:zJUkddjZ0
「まあ冗談はこれぐらいにしておきましょうか。私は寛大ですから、これからする質問に正直に答えれば、裏切ったことについて不問に処します」

「寛大ねぇ」

「不服でも?」

「いいや。正直に答えましょう」

 俺を殺そうとするのではなく質問で許すのは、寛大だからではなく別の理由があってのことだろうに。

「貴方は今回の依頼から降りるとあの場でいいましたが、それはマリア・アッシュベリーを欺くための虚言ではなく事実か?」
 
「ああ、事実だ」

「……では、これから起きる事態についても当然覚悟の上だと?」

「そうなるな」

「そうですか。それは、実に見ものですね」

 イヴは手の甲を口元にあてクスリと、しかし目だけはめったに見られない見世物を前にしたようにおかしそうに嗤う。

「俺も質問してもいいか?」

「ええ、どうぞ。何せ私は寛大ですから」

「今回の結果は外れじゃない……むしろ当たりだと思ってないか?」

「……へえ?」

 イヴは目をわずかに細めるが、その声は平たんで乱れがなく、意表を突かれた様子は無い。だが俺は気にすることなく続けた。

「元からオマエがマリア・アッシュベリーという未知で強力な存在に、ただ数的優位があるという理由だけで挑むことに違和感があった。そして裏切った俺への寛容な態度。これはオマエが寛大だからではなく、最初からオマエの目的はマリア・アッシュベリーの暗殺ではなく、別にあったからだと推測される」

「それで、その別の目的とは?」

「オマエの目的は、依頼を受けること自体にあったんじゃないか?」

「へえ? もっと具体的に言ってくれませんか? 言っておきますが、もう少し核心を突いてくれないと動揺するフリもしてあげられません」

「……ダメか」

 残弾はもう無い。

 俺と同じでマリアと接触するために依頼を引き受けたのだとすれば、マリアに顔を見せないまま戻りはしないだろう。今回は顔を見るだけでよく、後日接触をはかる予定なのかとも考えたが、もはやそれは推測を元にした推測にすぎず、言ったところで呆れられるだけだ。

 今ある弾を打ち尽くしてでも揺さぶりをかけて、そこからさらに弾を得ようとしたができなかった。イヴの様子を見るに、的外れではないようだが。

「まあ悪くはない手でした。実は私がマリア・アッシュベリーの味方だったのなら、ここで貴方と吐き気を我慢しながら手を取り合って協力する、どどめ色の展開になり得る問いでした。あるいは焦ることなく判断材料をあと二つほど得てから私を問い詰めればよかったのですが……今この瞬間のみが、貴方が私を味方に引き込める機会だったのでこれは仕方がありません」

 もうイヴにとって俺は用済みなのだろう。背を向けてスタスタと歩き始める。そして俺はそれを黙って見送ることしかできない。


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