何も無いロレンシア
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44: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:56:45.65 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※



 あれからどれぐらい時間がたっただろうか。空を見れば、日が沈みかけている。茜色の空から降り注ぐ日差しはまだ暖かく、まるで今の私の胸の心境のようだった。

「とても、キレイだったな……」

 その人がどういった人間なのか。一目でわかることに気づいてからまだ一年も経っていない。それまでお父さんと二人きりで生きてきたから気づきようが無かった。

 誰でもわかるわけではない。これまでの体験からなんとなくわかってきた条件は、私と波長が合うか、極めて強い意志を持っていること。どちらかの条件を満たしている人は数百人に一人ぐらいで、そういう人と出会えるのが楽しみだった。

 波長が合えば合うほど、あるいは意志が強ければ強いほどはっきりとイメージがはっきりと見える。そして今日は、これまで見た中でもっとも強く鮮烈なイメージを、立て続けに三人も見ることになった。

 熱を帯びたままの錬鉄。

 自然と研磨されたサファイア。

 そして、夜の湖。

「どうして、あんなこと言うのかな……?」

 私は夜の湖が好きだった。森の中で私の一番のお気に入りの場所で、森を出てからも何度も思い起こした。

 月光の下で輝く深い藍色。

 羽音を立てながら水面(みなも)に着水する鳥たち。

 周りの木からハラリと落ちた葉が、クルリクルリと回りながら静かにたゆたう。

 鳥や魚たちの躍りでさざめく波紋。

 頬に感じるかすかな冷気。

 穏やかで静かで、けど命の息吹がそこかしこにたくさん芽吹いていた。

 私の大好きな場所。私の大好きな場所と、あの人から感じるイメージはまったく同じだった。

 けれど、彼は夜の湖という言葉を良い意味でとらえてはくれなかった。

「あの人、傷だらけだった……人に傷つけられてばかりだったせいかな?」

 別に全身を見たわけでもないのに察してしまうほど、彼のわずかにのぞかせる肌は傷で埋め尽くされていた。頬や額、手の甲や喉。私なんかでは想像もつかない生き方をしてきたんだろう。

「また会えるかな……こんなことなら、着いていけば……でも」

 さっきからあの人のことばかり考える。追いかければ良かったんじゃないかと想像する。

 でも迷惑をかける結果ばかりが思いつく。私は顔も目的もわからない人たちから狙われている。迷惑をかけないためにも、一人でいないと。それに――

「あのキレイな人……イヴさん、だったかな。ロレンシアさんとどんな関係なんだろう」

 一緒に仕事を、それも危険なことをする仲なんだ。あんなにキレイな人と一緒にいたら、きっと好きになるに違いない。私が着いていったところで邪魔になるだけなんだろう。

「今、どこにいるんだろう?」

 迷惑をかけてしまう、邪魔になるとわかっている。それでも考えが止まらない。

「あっ」


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