何も無いロレンシア
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45: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:57:20.58 ID:zJUkddjZ0
 ある考えが閃いた。あれほど強く鮮烈なイメージが見える人なら、離れていてもわかるかもしれない。

 多分あれから経った時間は三時間ぐらいだろう。山のふもとにある街に彼はいるかもしれない。

 その時、私はワクワクしていた。これだけ離れていても彼がわかるのなら、彼の意志が強いだけでじゃなくて、波長まで合っていることになるかもしれなかったから。

 だがらイメージが見えた時、私は本当に嬉しかった。拳を握って、やったと口にする瞬間だった。

「えっ……」

 そして絶句した。

 夜の湖を見ることはできた。けど様子がおかしかった。

 夜の湖がぼこぼこと泡立つ。それは魚が起こすものではなかった。泡立ちは穏やかな波紋ではなく、岸辺を侵食する波に成り果てる。

 湖の周りにある木々の根本から、濃い緑が信じられないほど大量に湖に流れ込み、藍色を塗りつぶしていく。

 魚たちが苦しむ。鳥が奇声をあげ飛び立とうとする。鳥が水面を離れた瞬間だった。泡立ちの中から鋭い刃が生え出て鳥を貫く。

 刃は何本も何本も現れる。濃い緑は絶え間なく湖を汚す。緑と鳥の紅い血が混ざり合う。

 私の大好きだった光景は、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされていった。

「……ッ」

 吐き気を催して口元に手をあてる。うずくまりながらイメージを見るのを止めた。

 今のは、いったい何だったのか。頭を整理していくと、自然と口に出る言葉があった。

「限りなく黒に近い緑……」

 そう、あれは黒に近いけど黒じゃなかった。黒のように綺麗と汚いを併せ持つ存在では断じてなかった。ただただおぞましかった。

「血まみれの針山……」

 ただ血を流すだけを良しとして、そのことに何の罪悪感も抱かずに、むしろ悦楽を見い出す許されないもの。

 その二つが、夜の湖を蹂躙していた。

「殺される……」

 あの人は強い人だ。きっとシャルケさんと同じぐらい強い。でもそんなこと、まったく関係なかった。

 世の中には善人もいれば悪人もいる。そんなことわかっていたし、悪い人と出会ったことも何度もあった。けどその認識が崩れるほどの邪悪の権化。アレに比べれば、これまで出会った悪人が善人に思えるほどの存在。私の想像が及ばない在り方。アレと遭遇してしまえば、この世のモノとは思えない死に方をしてしまう。

 それがたとえ、あの人であっても。

 そんな存在を直接目にしてしまえば、果たして私は正気でいられるかわからなかった。決して出会いたくない。けど――

「このままじゃ、ロレンシアさんが……殺される!」

 うつむいていた顔を上げれば、日が沈み切っていないのに暗くなり始めている。いつの間にか辺り一帯に暗雲が垂れ込めていた。

 暗雲は、侵食するかのようにあの人がいる街にまでその手を伸ばしていた――


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