何も無いロレンシア
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60: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:23:39.07 ID:zJUkddjZ0
 フィアンマとア―ソンの武名や悪評は、残酷さや血生臭さ、そして嫌悪と恐怖無しには語れないものだった。

 対してロレンシアのそれは二人のそれとは趣が異なり、不可解な不穏さを感じずにはいられないものであった。

 トロイメライ城消失事件の主犯にして、嘆きの谷を血染めの滝に変えし者、三度にわたる幻影の騎士の殺害。調べれば調べるほど謎が増える事件に関わっていることが一度や二度ではないのだ。

 納得する一方で、ア―ソンはロレンシアよりフィアンマの方をより脅威であると見た。

 ロレンシアは確かに強い。だがその力と剣では、自分に致命傷を与えるために何十と立て続けに斬りつけなければならない。一方でフィアンマの瞬刺殺は直撃をもらおうものなら体の半分は消し飛びかねなかった。

 そのフィアンマはというと、たとえ驚異的な再生力をもっていようとも瞬刺殺なら問題なくア―ソンを葬れることはわかっていたため、ロレンシアの方に重きをおいていた。ア―ソンより素早く、さらに瞬刺殺をさばく技術もある。とはいっても、戦場は屋内から屋外へと移り変わった。崩れた建物の残骸の下に、いつの間にか深緑の蛇が潜んでいないかを気にする必要はあるが、長柄の武器が真骨頂を発揮する場所だ。左右の動きが制限される狭い廊下も悪くはなかったが、いよいよ皆殺朱を縦横無尽に振り回すことができる。瞬刺殺をさばく難易度はさらに跳ね上がり、ロレンシアといえどもほぼ不可能な領域となる。

 一方でフィアンマには懸念があった。それはア―ソンの異常で、ロレンシアの不可思議な耐久力だ。フィアンマとて体力には自信はあったが、人間を止めたア―ソンの持久力と再生力にはかなわない。そしてこれは推測交じりではあったが、ロレンシアには痛覚がほとんど無いことに加えて、疲労という概念が無いのではという疑いがあった。その気になりさえすれば、何十時間と死ぬまで走り続けることもできるかもしれない。今のところダメージらしいダメージは負っておらず戦況を有利に進め、汗もちょうどいい具合にかいている最中だが、この化け物二人を相手に長期戦にもつれこむなら自分といえどもどうなるか。

「サテ……」

「第二ラウンド……か?」

「いいや、最終ラウンドだ。愚物ども」

 一分にも満たない戦いの中で、事前の情報と初見での判断を微調整する材料は十分にそろった。そしてその整理もついている。

 “深緑”のア―ソンは身体的な能力に限ればこの中で最強だが、技術と経験は残る二人に大きく見劣りする。しかしその再生能力と痛覚の鈍さに加えて、生来の残酷性により攻撃にためらいが無い。最強の身体能力をためらいなく振るうにあたって、技術の稚拙さはかえって読みづらいという利点がある。また戦場が屋内から屋外にうつったことで、もはや制限なく蛇たちを四方に解き放つことも、崩れた瓦礫の下に潜ませることも可能だ。加えて魔に心が呑まれている以上、さらなる奥の手が予想される。

 “血まみれの暴虐”フィアンマは、この中で一番正当な強さを持っていた。その膂力はおそらく世界で十本の指に入り、槍捌きにいたっては五指に入るだろう。さらにその手に持つは異端にして至高の槍、皆殺朱。高い身体能力と技術、それに見合った装備。強いて欠点をあげれば機動力に難があるが、特注の深紅のプレートメイルによる防御と皆殺朱の長い射程で何の問題も無くカバーできるものだった。今回シモンに集められた五人は全員同格だが、あえて最強を選ぶのならばフィアンマだろうとロレンシアは判断する。

 “何も無い”ロレンシアは、普通に考えれば他の二人に大きく劣っていた。常人からすればすべての能力が高いが、同格の実力者からすると突出したものが何も無い。力はフィアンマ、耐久力はア―ソンが大きく上をいく。速さこそ勝るが、それは単にフィアンマもア―ソンも速さを武器にしていないからだ。“沸血”のシャルケ、“かぐわしき残滓”イヴに比べれば鈍足とも呼べる。手に持つ剣もどこででも手に入る品質のもので、剣の技術も槍をメインとするフィアンマと同程度にすぎない。それなのに同格なのは、あまりにその存在が歪(いびつ)だからだ。その歪さに惑わされないようにと、他の二人は気を引き締める。

 先ほどまでの戦いは本気ではあったが、相手の戦い方が読めきれず全力を出し切れなかった。しかしそれも終わり。

 ここからが、最終ラウンド。


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