75: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:33:25.38 ID:zJUkddjZ0
何百何千という魔に心を呑まれたモノが跋扈し、その中から異界侵食を行うモノたちが次々と現れた。
侵食された場所は人が住める場所ではなく、日に日に人類の生存圏が削られていった。だがそれはしょせん、悪夢の始まりにすぎなかった。
異界侵食は基本的に、魔に心を呑まれたモノが住処と定めた地域で発生する。侵食を終えたら広がらないのが基本なのだ。
だがある時、異界の中でそこの主以外の魔に心を呑まれたモノが死ぬことがあった。果たしてそいつの魔は取り込まれたのか、それとも溶け合ったのか。いずれにしてもそれを契機に、その異界内はより特異な存在となり、侵食を外へと広げるようになった。
世に魔に心を呑まれたモノは何百何千もいれば、当然同じ事例が他にも起こり始めた。そうやって侵食を広げていくなかでさらに魔に心を呑まれたモノを取り込み、より邪悪で凶悪となり、侵食の勢いも増していく。
そしてついに――異界侵食同士がぶつかり合い、互いに侵食し、塗り替え――もはや、魔に心を呑まれたモノという従来の定義では収まらない六つの存在が君臨した。
蠢き増えるもの ヘルアーティオ
無貌、故に無望にして無謀 グリュントリヒ
引きずり込む霧 アンゴーシャ
乱立する墓標 ヤタコ
大地を均(なら)すもの オディオ
死を嘆く嗤い シン
陸大魔王と称され、天災の如く彼らは振る舞った。降臨した。蹂躙した。
人の世は侵食され、喰らい尽くされた。そして――消え去っていった。この世の法則に従わぬ魔王に侵食された世界は耐え切れずに消滅し、魔王はさらなる贄を求めて侵食する。
侵食される世界は地獄だった。
ある者は何千という口に咀嚼され、何千という口の一部と化した。
ある者は目鼻や口を奪われ、狂った猿のように暴れまわり、人の顔をグチャグチャにするようになった。
ある者は霧が晴れた後、恍惚とした表情で喉を掻きむしりながら死んでいた。
ある者は夜明けの無い丘で、生きながら永延と貼り付けとなった。
ある者は地震に怯えてうずくまっていると、全身くまなく大地に一体化させられた。
ある者は突然気が触れて笑い出し、それを耳にしてしまった者も狂って笑い出す。それを聞いてしまった者もまた同じ。やがて彼らは涙を流しながら狂い死ぬ。
世界は滅びる一歩手前だった。後に大融落(グレイブフォール)と呼ばれる、人の子にとって終わらない悪夢の日々。
そこに、一人の少女が現れた。
彼女は魔に心を呑まれていなかった。しかし己のエゴで世界を穢していないのに、超常の力を持っていた。
彼女は右手に剣を、左手に杖を持ち魔王に立ち向かった。
奇跡の使い手、聖女マリア。
この世を救い、この世から消えてしまった世界の母。
「良かった……良かったぁ……本当に、本当に」
泣きじゃくりながら俺にしがみつく彼女は果たしてわかっているのか。
自分が――聖女の再来であることを。
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