167: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:07:54.79 ID:iX/HvtXE0
……後になって振り返れば、この時の私は、求めていたものを寸でのところで取り逃したと思い込み、自暴自棄な心に縛られていただけだったのかもしれない。
目先の結果に捉われ、判断力を失った私が、もしこの時、本当に一歩を踏み出していたらと思うと、ぞっとする。
そして実際、私はその一歩をほとんど決意しかけていたのだ。
十二月の半ば、みぞれが降る寒い日だった。
私はレッスンを終え、プロデューサーさんに相談したいことがあるからと、一人で事務室に向かっていた。
今日こそ話そう、プロデューサーさんに私の覚悟を伝えようと何度も繰り返した決心を、私は事務室の扉の前に立ちながら再び心の中に唱えていた。
が、土壇場になって私は、どうやって話題を切り出すべきか何も考えていなかったことに気付いて、今さら頭を捻りだした。
そうして部屋の前で何分も考え込んでいたら、突然、扉が開いて、プロデューサーさんと鉢合わせしてしまった。
私は不意をつかれて慌てふためいた。
プロデューサーさんは最初、驚きに目を丸くして、何かを言おうとしていたらしかった。
が、ふと考え直したようにちらりと背後に目線をやると、なにやら真剣な様子で、
――ちょうどよかった、水本に話したいことがある――
そう言って、私を事務室に招き入れた。
……その話というのが、以前、ドラマ『あいくるしい』でお世話になった監督から、私宛に次の映画への出演のオファーが来ているというものだった。
それも、まさに数分前の電話で……。
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