水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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157: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 16:55:56.68 ID:iX/HvtXE0

そうして一度、始まってしまえば、あとはこのゆりかごのような慣性に身を委ねるだけだった。

呼吸するように、私は大きなうねりの中にいた。
もはやフルートだけでなく、音楽自体が私の一部なのだった。
以下略 AAS



158: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 16:57:09.23 ID:iX/HvtXE0

特別、驚きはしなかった。

かと言って安堵したり、喜んだりすることもなかった。

以下略 AAS



159: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 16:58:13.76 ID:iX/HvtXE0

やがて無心のうちに曲が終わった。

沸き起こる拍手の嵐が私を徐々に現実に引き戻した。

以下略 AAS



160: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:02:46.07 ID:iX/HvtXE0


   十六

春、大学生になった。
以下略 AAS



161: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:03:27.69 ID:iX/HvtXE0

――その後、六月のデビューイベントを成功させた私たちは、勢いにのってトークイベント、握手会、フェスのゲスト参加等、精力的に活動を続けていった。
九月には二枚目のシングルも発売し、スケジュールにはライブの予定が次々に舞い込んできて、しかもそのうちのひとつはチケットが完売するという、昔の私なら考えられないような事態が起こり、そこで私はようやく、自分たちが注目されてきているということを実感した。

相変わらず学業と折り合いをつけるのは大変だったけれど、そうした苦労がきちんと結果に結びついていることが何より嬉しくて、少しくらいの忙しさは全然、気にならなかった。
以下略 AAS



162: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:03:58.86 ID:iX/HvtXE0

決して、忘れていたわけではなかった。

しかしその頃の私はとにかく毎日が忙しくて、彼女のことをゆっくり考える暇もなかったのだ。

以下略 AAS



163: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:04:48.06 ID:iX/HvtXE0

ただ、それとは別に、やはり彼女のことが心配だった。
あの時の、やつれた細い身体、覇気の失せた表情を思い出すと、もしかしたら、という不吉な考えが頭に浮かぶ。

しかし結局のところ、私は紗枝ちゃんの安否を案ずるだけ案じて、実際に何か行動を起こすことはなかった。
以下略 AAS



164: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:05:27.72 ID:iX/HvtXE0

そして私は後に思い返す。

この、繁忙の熱狂に我を忘れたように生活していた日々こそ、かつて私が思い描いていた幸福のひとつの形だったのではないかと。

以下略 AAS



165: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:06:15.68 ID:iX/HvtXE0

しかし、目の前の現実は私が想像していたよりも遥かに堅く、険しく、非情だった。

確かに、私たちのグループは一時期、大きく勢いに乗っていた。
九月の比較的大きなライブイベントを終え、一旦は落ち着いた活動も、その後、秋から年末にかけて予定されていた各種イベントのために、水面下ではそれぞれの目標に向けて課題に取り組み続けていた。
以下略 AAS



166: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:06:59.41 ID:iX/HvtXE0

私たちは緩やかな敗北を喫していた。

十二月になり、次のライブの目途がまったく立っていないことが分かると、私もとうとう認めざるをえなくなった。

以下略 AAS



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