水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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99: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:11:47.19 ID:iX/HvtXE0


   十一

旅行の、特に二日目の計画はほとんど私に任されていた。
これは自分から言い出したことでもあるけれど、半分は私たちの慣習によるもので、つまり特別なイベントごとでは私が仕切るというのが二人の間の暗黙の了解だったのである。
要するに普段お世話になっている彼女への恩返しということだ。

そんなわけで、二日目の朝、私たちはまずタクシーに乗って駅へ向かう途中の美術館へ行くことにした。
解放感のある近代的な建物で、私としては特に深い興味があってそこを選んだわけではないけれど、落ち着いてゆったりと過ごせる場所を考えたら自然と美術館が候補に上がったのである。

元々、美術館は私たちにとって定番のデートスポットだったので、観光としてはいささか新鮮味に欠けるものの、かえって気を張らずに安心して楽しめるだろうと考えていた。
そして実際、私たちは旅行先ということも忘れ、絵画やら彫刻やら、思わず首をかしげてしまうような奇妙な展示物まで、数々の作品をじっくり観賞することができた。
とはいえ、さすがにそこで一日潰すわけにもいかなかったので、私たちは時間もそこそこに美術館を発つことにし、最後に館内の販売店で買ったアイスクリームを食べながら悠々と駅までの道を歩いて行った。


おしゃれな町並みは歩いているだけで楽しかった。
透き通るような秋晴れの空の下、洋風とも和風ともつかない独特な意匠の家々が軒を連ねていて、私も紗枝ちゃんもふいに足を止めてはその珍しい家屋や庭の眺めに魅入られたりした。
大半は人様の住居だったので写真は撮れなかったけれど、そのかわり記念館だの教会だの、その他観光地らしい場所を通りかかるたび、私たちは人目も憚らずお互いにカメラを向け合って喜びはしゃいだ。

そんな調子だったので、午前中だけで私が撮った写真はゆうに五〇を数えたほどだった。
そもそも私は写真を撮るのがあまり得意でなかったから、良い絵を残そうとして余計に枚数がかさんでしまうのである。

一方、そうやって納得のいく絵が撮れるまで何度もシャッターを切る私と比べると、紗枝ちゃんのやり方は随分と思い切りがいい。
カメラを構えたと思うと、次の瞬間にはもう撮り終わっている。
驚くのは、そうしていかにも気軽に撮ったような彼女の写真が、どれもこれ以上ないくらい完璧な絵に仕上がっていることだった。
そうして私が感心しながら彼女の腕前を称賛すると、彼女は思いがけず素直に嬉しがって、それは褒めた私の方が照れてしまうくらい素朴な笑顔なのだった。……



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