善子「それでも私は■■を愛して生きていたいのです」
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1:名無しNIPPER[saga]
2019/07/21(日) 04:16:37.74 ID:gGVI8GvBO
「はあっ…はあっ…」

夕食を手早く腹に収めリビングのソファに寝転んだ私に、純粋な死の恐怖が私に襲い掛かる。

両の掌を胸に当てて強く握る様に押さえつけてみても、荒く跳ねる鼓動は留まることを知りません。

私が今、家の中でたった一人だと言うのが不幸中の幸いでした。今の私を外から見たのなら、目が虚ろなまま息を荒げている、奇特な人間に他ならないのですから。

誤解しないで貰いたいのは私は何かの疾患や持病を、少なくとも体の表面上には全く、持っていないということです。

別に、体のどこからか血が出たり病院に寝たきりになったり、ということは私の十五年の生涯を辿ってみても、一切ありません。


私の死の恐怖とは、死にそうだから怖いのではありません。「死」が怖いのです。


ただ、本当に「死」が怖いのです。

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2:名無しNIPPER[saga]
2019/07/21(日) 04:17:28.23 ID:gGVI8GvBO
目の前の現実化から目を背ける様に目を強く瞑ると、暗闇の中に走馬燈のように過去の記憶が頭の中を跋扈します。

中が良かった園の先生、一緒に遊び回った同い年の友達、くだらない事で喧嘩したイタズラ好きの悪ガキ達。

私の頭の中に、映像としてハッキリと思い出せるほど記憶が残っているのは、幼稚園の頃位までで、それ以前の事は出会った人や、住んでいた所までは、思い出せません。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[saga]
2019/07/21(日) 04:18:08.72 ID:gGVI8GvBO
答えの無い問いに苛まれていると、私の前に顔を出す者があります。

「はぁい☆」

それは、私がステージ上で歌を歌い、流れるメロディーに合わせて懸命に踊り、輝いているときには姿を現しません。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:18:35.82 ID:gGVI8GvBO
善子「はぁっ……はぁっ……」

「ふふっ、いいわぁ……美少女が苦しんでいるのは絵になるわ。でも、やりすぎはダメよ? メンヘラっぽくなっちゃうわ」

善子「うるさいわね……そんなつもりなんて無いわ」
以下略 AAS



5:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:19:02.46 ID:gGVI8GvBO
「かわいそうな津島善子ちゃん。答えの無い苦しみに苛まれて、逃げ出せない迷路に取り込まれて、御労わしや…御労わしや…」

善子「……うるさい」

「まあまあ、ほら!迷路と言えばこの前読んでた本にあったじゃない、迷路の魔人。なんだっけでっかい角が生えた……ええとミノ…なんだっけ?」
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[saga]
2019/07/21(日) 04:19:45.55 ID:gGVI8GvBO
「そうだねえ……善子に子供が生まれてその子を抱っこ出来たら、いつ死んでも構わないわねえ」

笑いながら言う祖母に私は「なんでそんなこと言うの?」とただただ、悲しい気持ちになった。

「死んでも構わない」なんて、信じられないことだった。思えば、この地獄の様な思考と付き合い始めたのは、この時からだったかもしれません。
以下略 AAS



7:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:20:11.70 ID:gGVI8GvBO
命とは、そういうものだから仕方がない。そう思う人間が私は理解不可能だ。

生物の命は潰えるのは分かる。それを、「そういうもの」で受け止められる神経の図太さを、私以外の全ての人間に標準装備されていることが、たまらなく不思議でしょうがないです。

何も分からないのは空恐ろしい。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:20:52.80 ID:gGVI8GvBO
【一年生 教室】
ルビィ「おはよー善子ちゃん!」

善子「……おはよ」

以下略 AAS



9:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:21:24.18 ID:gGVI8GvBO
花丸「そういえばルビィちゃん、明日の浴衣の話なんだけど……」

ルビィ「……明日?」

花丸「ほら、週末の夏祭りのに着ていく浴衣のいいのがマルの家に無いって話したでしょ? そしたらルビィちゃんが『ルビィの家にいっぱいあるから、一着くらい貸してもいいかお母さんに聞いてみる!』って」
以下略 AAS



10:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:22:25.32 ID:gGVI8GvBO
善子「行ったみたいね、朝から元気なことで……低血圧の私には羨ましい限りだわ」

花丸「ふふっ…いつでも元気なところが、ルビィちゃんのいいところずら」

善子「そういえば、何で明日なのよ? 夏祭りは土日だから明後日じゃないの?」
以下略 AAS



11:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:22:56.19 ID:gGVI8GvBO
花丸「明かりが灯った川辺は綺麗らしいずら、善子ちゃんも行くずら!」

善子「はいはい、というかどうせ土日も集まるならウチ泊って行けば?」

花丸「へ…? それはマル立ち的にはありがたいけど……大丈夫、お家の人とか」
以下略 AAS



12:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:23:29.53 ID:gGVI8GvBO
授業が始まってから三分ほどしてから、ルビィは教室に戻ってきた。なんでも、母親に浴衣の柄の指定をしていたら時間が始業時間が過ぎ差ていたらしい、呑気なものだ。


先程の花丸との会話で、私は一つ、小さな嘘をついた。

以下略 AAS



13:名無しNIPPER[saga]
2019/07/21(日) 04:24:20.43 ID:gGVI8GvBO
「死が堪らなく怖い」

一度中学生の頃に私のこの精神状態について、調べた事がありました。

ほんの数分の検索で、あっさりと目的の情報まで辿り着きました。
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[saga]
2019/07/21(日) 04:24:54.79 ID:gGVI8GvBO
この症状を人肌が恋しいのと勘違いして、狂ってしまう人などもいるそうです。気が狂い、頓珍漢な宗教に傾倒してしまう人も少なくは無いそうです。

私の身には、幸運な事にその機会は無く、また同時に、そうなれたらどんなに楽だったか、時々考えてしまいます。

正気のまま、正気を失っていくのは、苦しい物です。
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[saga]
2019/07/21(日) 04:25:22.94 ID:gGVI8GvBO
【狩野川 川岸】

ルビィ「あ……あれ、善子ちゃんじゃない?」

花丸「ホントずら、おーい!」フリフリ
以下略 AAS



16:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:26:15.28 ID:gGVI8GvBO
川の上を、ぼんやりとした光が流れて来る。緩やかなこの川の流れに沿って、対岸からゆっくりと灯篭がこちらへとやって来ます。

気が付けば、昼間の太陽の熱がまだ残る川沿いに多くの人が集まっていました。

普段寂れて人が居ない商店街が並んでいるというのに、祭事た催し物があると庭の隅のアリの巣をつついた様に、何処にいたのか分からない程の数の人が集まって来るのが、この町の特徴です。
以下略 AAS



17:名無しNIPPER[saga]
2019/07/21(日) 04:27:48.30 ID:gGVI8GvBO
この行為の意義を、考えてしまった。

もしも自分が死んだとして、自分を偲び、家族や親戚がこの場に足を運んで、こういった催しに参加してくれたのならどうだろうか?

私なら多分、嬉しいと思う。
以下略 AAS



18:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:28:31.39 ID:gGVI8GvBO
この夜私は初めて、件の思考を他人に打ち明けることにしました。ルビィと花丸の二人にです。

半ば解放されるかもという希望を持って、が半分。勇気を出して死に触れたのに何も変わらなかった現実に対して自暴自棄な気持ちを持って、が半分でした。

きっと二人なら、笑い飛ばしはしないだろう。そこだけは、絶対に信用できる。ただ、理解してもらえるかは、全く分からなかった。
以下略 AAS



19:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:29:09.76 ID:gGVI8GvBO
ルビィは、心配そうな目をしていました、「辛くなったらいつでも電話かけて来てもいいからね、夜中でもルビィ、こっそり家を抜け出して電話に出るから」そう言ってくれました。

ルビィは、優しい子でした。
きっと、その答えは友達として「正解」なのでしょう。

以下略 AAS



20:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:30:14.22 ID:gGVI8GvBO
ちゃぽん、ちゃぽん


無音のバスルームに水をかき回す音が静かに響く。

以下略 AAS



21:名無しNIPPER
2019/07/21(日) 04:30:49.03 ID:gGVI8GvBO
善子「……帰って」

「冷たいわね〜いいじゃない、少しくらい」

善子「こっちはアンタになんか構ってられないの!帰って!」
以下略 AAS



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