高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
1- 20
18:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:38:36.82 ID:eE/KPeRw0
 カフェアイドル・高森藍子ちゃんによるキャンペーンということもあって、カフェには藍子目当てのお客さんがたくさんやってくる。でも、少し過ごすうちに――


 開店から40分くらい経った頃、ドアをくぐったのは溌剌とした男性だった。彼もやはりこれまでのお客さんのように、まず藍子に目を留める。笑顔を向けられ、照れ感情をめいっぱい隠すように頬をひくつかせつつも目を逸らさない。ふらり、ふらり、とさっきまでの精悍な出で立ちはどこへ行ったのか、極上のハチミツを見つけた熊のようにちょっぴりだらしない足取りで藍子へ近付くと、手を差し出した。声は聞き取れきれなかったけど、握手、と言っているように見えた。
 すかさず近くのスタッフさんが割って入る。藍子も、今日は店員の藍子ですから、と柔らかく拒む。
以下略 AAS



19:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:39:09.25 ID:eE/KPeRw0
 ちいさなトラブルの種は抜いてしまうのではなく、持ち味の花を咲かせる立ち回りもあって、『あいこカフェ』はそれからも順調だった。

 中にはさっきみたいに、藍子に握手をお願いしたり、図々しくも色紙を出してくる人もいた。
 その度に近くにいるスタッフさんが止めにかかる。同じことが何度か起きるとそのうち、制止役のスタッフさんが固定されるようになって、できるだけ藍子の近くにいようと立ち回り始めた。それに合わせてギザギザヘアーさんが導線を変え、それを見た別のスタッフさんもまた……と、自然なアドリブが発生していく。
 サインを断られてしまった人も、カフェという空間に浸ることで、もやっとした気持ちとか、怒りの感情とかを溶かしてゆくのが見て取れる。メッセージカードを手に取って目を見開き、ちょっとだけだらしなく顔をふにゃっとしたり……席を立つ時にはやっぱり笑顔。
以下略 AAS



20:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:39:39.42 ID:eE/KPeRw0
 ――今日は店員の藍子ですから

 そう言った時の藍子は、どんな気持ちだったんだろ?

 新しいお客さんがやってくる。笑顔が、横顔の端から見える。けどそれが、アイドルとしての物なのか、店員としての物なのかは分からない。
以下略 AAS



21:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:40:06.74 ID:eE/KPeRw0
 こうして、『あいこカフェ』1日目は終了した。
 結果は見ての通りの大繁盛。もちろん私も、時々Pさんを手伝いに行ったりしてたよ。ただ見てただけじゃないんだからね。

 途中で交代休憩の時間も決めてたけど、藍子もスタッフさんも誰も長い休憩を取ることはなかった。
 フロアを離れるとしたらトイレに行く時と……一応、藍子がスタッフさんに促されて昼食だけ取りに来たけど、おにぎり1つ食べただけですぐ戻るたった2分程度のもの。
以下略 AAS



22:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:40:36.39 ID:eE/KPeRw0


□ ■ □ ■ □


以下略 AAS



23:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:41:36.48 ID:eE/KPeRw0
 どうにか容貌を整えた私は、直後にやってきた設備業者さんとPさんとのやり取りを手伝いつつ終わり次第再び裏方モードへ。キッチンの裏、ドアをほんのちょっとだけ開けて、藍子の姿を探す。

 ……なんか、お客さん多くない?

 昨日より明らかに席が埋まっているし、店員となったスタッフさんも駆け足が止まらない。
以下略 AAS



24:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:42:36.49 ID:eE/KPeRw0
 姿見で制服姿を3度見直して、ウィッグと、カラコンも着けちゃえ。口調は藍子の物を真似てひたすらに丁寧に。……うんっ、大丈夫。これくらいなら即興で化けられる。
 フロアに出る1歩目の震えを土踏まずで踏みしめて、まずはキッチンにいる藍子の元へ。目を見開く藍子に手をひらひらと振る。

「私も手伝いますよ、藍子さん」

以下略 AAS



25:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:43:36.71 ID:eE/KPeRw0
 最後に見た時よりもかなり大人びている。野暮ったい髪型は、今もお堅い印象はあるけどかなりきらびやかに、オイルケアやドライヤーを念入りにしていることもすぐ分かった。
 でも、そんなことよりここにいたことが。
 急に出会えたことがびっくりして、そしてすっごく嬉しかった。

 彼女も同じく目を見開く。私のカラコン入りの目を見て瞬きを繰り返すと大急ぎでポケットからスマフォを取り出した。見ているのはたぶん、今朝呟いたという「期待を匂わせる」文章。何度も何度も画面と私とを交互で見て、徐々に目と口が大きく開いていく。慌てて顔を上げた先は店内。スタッフさん1人1人の顔を、目を細めてじっくりと見据える。
以下略 AAS



26:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:44:06.95 ID:eE/KPeRw0
「ふぅー、は、はぁー……あぁびっくりした……。えっ、アイツですか? アイツなら猫を見に行きましたよ」
「……猫?」

 確か、テラス席の外をたまにうろついている子。準備中にも見かけたよね。猫よけを施してるから、中に入ってることはないみたいだけど……。

以下略 AAS



27:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:44:37.34 ID:eE/KPeRw0
 何度かテラス席と店内を十何往復することでようやく落ち着くことができた。廃棄物を抱えて建物の外周からゴミ置き場へと放り投げ、勝手口からバックヤードまで。壁に背を預けて大きく大きく息を吐く。

 疲れたー……。

 瞬間的に化けることは簡単でも、やり続けるのは楽じゃない。これが1日通しての撮影なら最初にスイッチみたいな物が入ったりするしやり通せるんだけど、なにせ急だったから……。ウィッグの蒸れもホントに鬱陶しい。寝室まで戻って、そういえば朝駆けで布団も畳んでいなかったことを思い出す。けっこう綿密に計画を練ってたのに、いろいろ綻んじゃったね。でも、これも楽しいからいっか♪
以下略 AAS



28:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:45:07.47 ID:eE/KPeRw0
 バックヤードへ駆け込んだ藍子の姿を、お客さんも目で追っていた。午前に当たりをつけてやってきた人達は、残念ながらカフェのルールで退席済み。店内の、特に長机には空席が目立つ。
 残ったラッキーな人達、あるいは正解を見つけられた人達は、スタッフさんのアナウンスに色めきだつ。くつろぎスペースでおひるねしていた人は足音で目覚め、来た時には無かった音楽器具やマイクに目を丸くしているようだった。

 ひょっとしたら、告知を見ていない人だっているかもしれない。

以下略 AAS



43Res/82.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice