高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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29:※歌としてお借りした元ネタは「トラベルナ」です、ご参考までに……。[sage saga]
2021/05/16(日) 14:46:07.36 ID:eE/KPeRw0
「〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜♪」

 やがて歌が始まった。声の柔らかさがリズムを帯びて、少しずつ形を変えてゆく。
 森の奥で、妖精が楽しげに歌っているような――。
 そういえば、いつだったっけ。藍子のことをカフェに住む妖精とか、あるいは魔女だなんて冗談を言い合った。
以下略 AAS



30:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:47:07.37 ID:eE/KPeRw0
 ライブが始まる前は表情で背を押した、ファンのみんな。藍子が歌い終わった時には、拍手と、歓声で少女を迎えた。
 それは歌を通じて、この場のみんなと同じ想いを共有できたのだと知っているから。寝ていた人も、スマフォ相手に顔をしかめていた人も、話している内容がちょっとだけ愚痴になりつつあったママ友も。密かにアイドル推しが趣味で、内気で誰とも好きの気持ちを共有できずに1人で来た人だって、やんわりと包み込んであげるのは――藍子だけではなく、藍子の優しさを受け取ったファンによるものだった。
 伝播していった気持ちが最後には、より引き込む力の強い場所へ。
 アイドルの藍子へと戻っていって、少女の笑顔をきらめかせる。

以下略 AAS



31:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:48:06.58 ID:eE/KPeRw0
 ミニライブが終わってからも、多くのお客さん、藍子のファンの人たちは席を立つことなく思い思いの時間を過ごしていた。
 長く居座り続けるならそれとなく言うルール、というのはもちろん続いてるけど、新しいお客さんが来るまでは誰も追い払うことなんてしなかった。16時を回った頃からは新しいお客さんがほとんど来ず、店内でも時々思い出したかのように注文する程度で、店員役のスタッフさんは一緒になってのんびりとした時間を楽しんでいるようだった。

 ときどき藍子が、ラジオ番組を真似たトークを始めてみたりする。お客さんから質問を募集して、それにのんびりと答えていく。

以下略 AAS



32:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:48:37.20 ID:eE/KPeRw0
 コーヒーは眠れなくなっちゃうかもしれない。ココアにも同じ成分が入っていると聞いたことがある。ジュースを飲み干して悪い子! ……っていうのは、今やってもしょうがないよね。
 考えついた結果が「白湯」という実物通り味のしない選択だった。とほほ、と肩を落とす私のことを、まあまあ、と苦笑しつつ撫でてくれた。
 くっだらない意地を張ってうまくいかないのはいつまでもそう。そんな日々の失敗だって、藍子にとっては新しい思い出になるのかもしれないけどね。

「いただきます、加蓮ちゃんっ」
以下略 AAS



33:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:49:06.93 ID:eE/KPeRw0
「ねえ藍子。ここでいつもみたいにのんびり喋るのもいいけど……。いつものカフェじゃないし、いつもの店員さんもいないんだから、せっかくだしいつもじゃないことをしない?」
「いつもじゃないことって?」
「それはね――」

 実はやってみたいと思うことがあった。藍子の手を取って立ち上がる。連れて行く先はカフェの向かって右側、くつろぎスペース。靴を脱いで、藍子は引っ張られながらこんな時でも私の分も含めて靴を合わせて、先に座り込んだ私の隣に腰を降ろした。
以下略 AAS



34:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:50:06.48 ID:eE/KPeRw0
「……カフェさ、明日で終わっちゃうね」

「……そうですね。ひとまず、明日で終わってしまいます」

「なんだか寂しいね」
以下略 AAS



35:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:50:38.81 ID:eE/KPeRw0
 新しい1日を告げる鐘の音が、全身へとエネルギーを行き渡らせた。藍子も同じだったようで、私達は合図もなく、どちらかがどちらに引っ張られることもなく起き上がった。
 クッションの汚れや食べ物の小破片がとても気になる。藍子も私の手を離し、長机の椅子をピッタリ並べ直しているようだった。
 次は、と店内を見渡す目が、ふっと閉じる。
 ……頑張りたくなる気持ちは分かるけど、もう12時を過ぎちゃった。私も、すっごく眠たいや。

以下略 AAS



36:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:51:06.48 ID:eE/KPeRw0
 昨日のことも考えて、3日目は裏方を止めて主にキッチンの雑用を担当することにした。ウィッグをつけなおし、変装と異物混入の阻止を兼ねた頭巾を巻く。藍子も真似しようとしたけど、看板娘に野暮ったい格好はさせられないので没収。

 とは言っても……正直、私の手伝いはなくてよかったと思う。

 最終日となる3日目は、『あいこカフェ』に力を貸してくれたスタッフさんが全員集まった。事務的な面を担った方も様子を見に来てくれて、周りに勧められて少しだけ店員としても入る。人手の多さもあって昨日みたいな忙しさはなく、何もないまま時間が過ぎていく。
以下略 AAS



37:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:52:06.60 ID:eE/KPeRw0
 藍子がまた新しい注文を完成させ、お届けする姿をぼんやり眺める。

 ……こうして見ると改めて、これが藍子の世界なんだって思う。
 カフェとアイドル……。カフェアイドル、やっぱりやれるんじゃないかな。

以下略 AAS



38:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:52:37.21 ID:eE/KPeRw0
 最後のお客さんを藍子が送り出し、そのままドアの表側まで回る。表札を「準備中」へ、手癖で変えようとするも……寂しそうに一笑し、チェーン部分を手に表札ごと外してしまった。店内へ戻った藍子は、もう1度両手を前へ揃える。

「みなさん、ありがとうございました……『あいこカフェ』は、ただいまをもちまして閉店です!」

 そう言うと、店内にたくさんの拍手が巻き起こった。1日目、2日目、3日目に見た店員さんよりずっと多い数の、これだけの人達が藍子の為に頑張ってくれた。暖かな気持ちを受け止め、もう1度お礼を言う。
以下略 AAS



39:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:53:06.20 ID:eE/KPeRw0
 1つ1つのカフェだった物が運ばれてゆく度に、藍子はちらりと時計を見てしまう。もうちょっと、この時間が続けばいいのに――たった3日ながら、もう1つの家とも言えてしまう居心地の良さも、昨晩藍子と一緒に寝転がったくつろぎスペースも、なんの情緒もなく片されてしまう。――目を伏せる藍子はだけど、私が肩を叩くと、大丈夫だよと首を横に振った。

「……加蓮ちゃん、覚えていますか?」
「なにを?」
「カフェがカフェと呼べるために必要な物は、店員さんと、それからお客さんです」
以下略 AAS



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