高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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34:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:50:06.48 ID:eE/KPeRw0
「……カフェさ、明日で終わっちゃうね」

「……そうですね。ひとまず、明日で終わってしまいます」

「なんだか寂しいね」
以下略 AAS



35:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:50:38.81 ID:eE/KPeRw0
 新しい1日を告げる鐘の音が、全身へとエネルギーを行き渡らせた。藍子も同じだったようで、私達は合図もなく、どちらかがどちらに引っ張られることもなく起き上がった。
 クッションの汚れや食べ物の小破片がとても気になる。藍子も私の手を離し、長机の椅子をピッタリ並べ直しているようだった。
 次は、と店内を見渡す目が、ふっと閉じる。
 ……頑張りたくなる気持ちは分かるけど、もう12時を過ぎちゃった。私も、すっごく眠たいや。

以下略 AAS



36:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:51:06.48 ID:eE/KPeRw0
 昨日のことも考えて、3日目は裏方を止めて主にキッチンの雑用を担当することにした。ウィッグをつけなおし、変装と異物混入の阻止を兼ねた頭巾を巻く。藍子も真似しようとしたけど、看板娘に野暮ったい格好はさせられないので没収。

 とは言っても……正直、私の手伝いはなくてよかったと思う。

 最終日となる3日目は、『あいこカフェ』に力を貸してくれたスタッフさんが全員集まった。事務的な面を担った方も様子を見に来てくれて、周りに勧められて少しだけ店員としても入る。人手の多さもあって昨日みたいな忙しさはなく、何もないまま時間が過ぎていく。
以下略 AAS



37:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:52:06.60 ID:eE/KPeRw0
 藍子がまた新しい注文を完成させ、お届けする姿をぼんやり眺める。

 ……こうして見ると改めて、これが藍子の世界なんだって思う。
 カフェとアイドル……。カフェアイドル、やっぱりやれるんじゃないかな。

以下略 AAS



38:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:52:37.21 ID:eE/KPeRw0
 最後のお客さんを藍子が送り出し、そのままドアの表側まで回る。表札を「準備中」へ、手癖で変えようとするも……寂しそうに一笑し、チェーン部分を手に表札ごと外してしまった。店内へ戻った藍子は、もう1度両手を前へ揃える。

「みなさん、ありがとうございました……『あいこカフェ』は、ただいまをもちまして閉店です!」

 そう言うと、店内にたくさんの拍手が巻き起こった。1日目、2日目、3日目に見た店員さんよりずっと多い数の、これだけの人達が藍子の為に頑張ってくれた。暖かな気持ちを受け止め、もう1度お礼を言う。
以下略 AAS



39:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:53:06.20 ID:eE/KPeRw0
 1つ1つのカフェだった物が運ばれてゆく度に、藍子はちらりと時計を見てしまう。もうちょっと、この時間が続けばいいのに――たった3日ながら、もう1つの家とも言えてしまう居心地の良さも、昨晩藍子と一緒に寝転がったくつろぎスペースも、なんの情緒もなく片されてしまう。――目を伏せる藍子はだけど、私が肩を叩くと、大丈夫だよと首を横に振った。

「……加蓮ちゃん、覚えていますか?」
「なにを?」
「カフェがカフェと呼べるために必要な物は、店員さんと、それからお客さんです」
以下略 AAS



40:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:54:06.35 ID:eE/KPeRw0
 解散したのは、まだもうちょっとあくびが出るには早い時間。とはいえ一旦の区切りであって、『あいこカフェ』の片付けはもう1日に及ぶ。残念ながら、私も藍子も明日はお互いレッスンやお仕事の予定を入れているので、もうここに来ることはない。
 Pさんへの細かい報告やミーティングは明日の予定が終わった後でということになってる。車で私達を家に送ってくれると言う言葉に甘え――スタッフさん1人1人が去っていくのを藍子と一緒に見送ったら、Pさんの車に乗り込む。

「お疲れさまでした。……終わっちゃいましたね、加蓮ちゃん」
「お疲れ様、藍子」
以下略 AAS



41:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:54:37.17 ID:eE/KPeRw0
 話したいことは山ほどあるけど、残念ながら車はさっさと藍子の家へと到着してしまった。あれだけたくさんの出来事を、帰り道の間にほんの片手分も共有し直せなかった。私も藍子も、動き続けていたのはもう口だけだし……明日からもまた毎日が始まる。名残惜しいけど、今日はこれでおしまい。

 車から出た藍子はPさんと挨拶して、それから私にも笑いかけた。

「加蓮ちゃんっ」
以下略 AAS



42:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:55:15.28 ID:eE/KPeRw0
 ――これが藍子にとっての、1つの到達点。

 長い長い上り坂を進み、時に迷い、悩み、険しい道に何度も足を止めながらも、自分のやり方を探し続け、アイドルとして輝き続けた。

 失われることなく持ち続けた強い気持ちが行く先に作り上げたのは、自分のカフェという優しい場所だった。
以下略 AAS



43:名無しNIPPER[sage]
2021/05/16(日) 18:38:43.57 ID:1czdXDgXO

結構読み応えあった


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