高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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8:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:31:38.96 ID:eE/KPeRw0
 店内へ戻ると、藍子と、それから連絡を終えたスタッフさんがおかえりなさいと言ってくれた。私も片手を上げて、ただいま、と軽く言う。

 今ここにいるスタッフさんは私を除いて3人。藍子によると、昔からよく同じ現場にいることが多い人が2人と、今回初めて会った人が1人みたい。
 私にとっては全員が初めまして。とっくに顔も名前も覚えたけどね。

以下略 AAS



9:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:32:07.30 ID:eE/KPeRw0
 さて、私を対象とした賭け行為に対してどうイジメてあげようか考えている間、藍子は最後の1人、3人目のスタッフさんとお話をしていた。
 少し灰ずんだ目が、ある病院の子供を思い出す。目の下のくっきりとした皺が特徴的の……ただし、年齢は控えておこうね。心の中ではお姉さんって呼ばせてもらおうっと。
 見た目通りの聞き役性格、藍子もだいたいそんな感じだから、お互い割り箸をお弁当箱の上に並べてしまい、お昼ごはんがちっとも進んでいない。見なさいよ、こっちのエセ令嬢なんて口の反対側にまでご飯粒をつけてんのよ? だいたい、いくら時間がないからって――そこまで続けたところでやめておいた。なんか、他の人がいる前でそーいうことを言うのって違うと思う。スタッフさんがいくら馴染んだとはいえ今回が初めましてっていうのもあるけど、なんか……なんだろ。分かんないけど……そっか。そうやって藍子をイジメるのは1対1の時だけだね。

 うんうんっ。そういうこと。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:33:06.64 ID:eE/KPeRw0
 藍子にお礼を言ってお弁当箱は自分で洗い、片付けてからは作業再開。少し気が早いけど、「1時間後にオープンしても大丈夫なくらいの準備」って心がけで進めちゃうことにした。
 それぞれのテーブルを改めて磨き直し、藍子お手製のメニューを置いていく。長机の一番手前と一番奥、それから2人がけの四角テーブルのこれまた両端の席にはメニューを開いて置いておく。
 中には種類のたくさんあるサンドイッチを始めとして、敢えて家で撮った写真を掲載することで温かみが生まれた定食の案内と、広く知られるレシピを元に事務所のみんなからも手伝ってもらったオリジナルのスイーツが並ぶ。リストに並ぶ一品物も小さいながら写真が添えられていて、見ててお腹が空いてくる。
 2ページ目はドリンク一覧。私の好きなメロンソーダや藍子の好きなココアはもちろん、なんといっても右半分を埋めるコーヒーの種類が魅力的だね。銘柄はおしゃれなフォントで。それを見てもピンと来ない方向けには下に、藍子によるとっても簡単で分かりやすい説明が加わっている。

以下略 AAS



11:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:33:37.52 ID:eE/KPeRw0
「加蓮ちゃん。加蓮ちゃん、いまいいですか?」

 ハッとなって振り返ると、藍子が大きく手を振っていた。玄関に業者さんが来ていて、他のスタッフさんも食材入りのコンテナを運び入れている。
 トラックの音も、ベルの音も気付かなかった。考え込みすぎちゃってた。メニューを大げさに閉じて藍子の元へ。

以下略 AAS



12:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:34:07.40 ID:eE/KPeRw0
「ねえ、藍子――」

 名前を呼んだ。

 反応が返ってきたのは、随分と遅れてからだった。
以下略 AAS



13:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:34:36.48 ID:eE/KPeRw0
「この後のこと、決めた?」

 藍子は最初、明日から始まる3日間のことだと思ったみたい。不思議そうに首を傾げ、そして私の言葉の意味に気がつき、わずかに目を見張る。

「カフェのこと。……どう? 実際に『あいこカフェ』がこうして形になった……なりつつある訳だけど、藍子の中で何か決まったこととか分かったこととかある?」
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:35:37.77 ID:eE/KPeRw0
「ずっと一生懸命になっちゃうくらい、今が楽しいんです」

 藍子は続けてそう言い、髪を揺らした。

「自分の思い描いてた理想ができあがるのと、大好きな場所が組み立てられていくのが、一緒に見られて……つい、駆け回りたくなっちゃうくらいっ。でも、カフェは静かにしなきゃいけない場所なので、走ることなんてしませんけれどね」
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:36:08.05 ID:eE/KPeRw0


□ ■ □ ■ □


以下略 AAS



16:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:36:37.76 ID:eE/KPeRw0
 ちりん、とベルが鳴る。


 最初のお客さんが来た!

以下略 AAS



17:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:37:36.10 ID:eE/KPeRw0
 改めて確認になるけど、『あいこカフェ』は藍子のアイドルとしての活動。3日間限定のキャンペーンだよね。

 アイドル活動だから、ファンのみんなにはもちろん事前通知している。
 ただ、最初に伝えたのはだいぶん前――ではあるものの、カフェアイドルとしてすっかり定着していた藍子がメインということもあって来店希望者が殺到した。カフェとして借りるスペースもそれほど広くないし、人員も限界がある。何よりカフェが部活大会が終わった後のファミレスみたいに大騒ぎになることは藍子が望んでいない。

以下略 AAS



18:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:38:36.82 ID:eE/KPeRw0
 カフェアイドル・高森藍子ちゃんによるキャンペーンということもあって、カフェには藍子目当てのお客さんがたくさんやってくる。でも、少し過ごすうちに――


 開店から40分くらい経った頃、ドアをくぐったのは溌剌とした男性だった。彼もやはりこれまでのお客さんのように、まず藍子に目を留める。笑顔を向けられ、照れ感情をめいっぱい隠すように頬をひくつかせつつも目を逸らさない。ふらり、ふらり、とさっきまでの精悍な出で立ちはどこへ行ったのか、極上のハチミツを見つけた熊のようにちょっぴりだらしない足取りで藍子へ近付くと、手を差し出した。声は聞き取れきれなかったけど、握手、と言っているように見えた。
 すかさず近くのスタッフさんが割って入る。藍子も、今日は店員の藍子ですから、と柔らかく拒む。
以下略 AAS



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