192:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:17:51.06 ID:oNd+Ad/T0
そこで廊下の向こうから、引きずるほどの袖――黒い一族の正装である長いローブ――と、スカートのような、薄い布で出来た腰当を床に引きずった少年が顔を覗かせた。
綺麗に櫛が入り、梳かされてピンなどで留められた茶色の髪。そして鳶色の瞳。
端正な顔立ち……いや、まるで人形のような整った卵形の顔だ。背丈はひょろ長く、僅かに猫背。顔には色とりどりの顔料で線が引かれていた。
袖をぶらぶらさせながら彼は周りを見回し、そして挨拶もせずに、一人取り残されているカランに目を留めた。
そして、彼はカランから視線をずらし。
193:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:18:22.65 ID:oNd+Ad/T0
溜まらず鼻を抑えたカランの目に、目前の男の口元……僅かに整った笑みを浮かべた口元が裂けそうな程強烈に、しかし一瞬だけニヤリと動いたのが見えた。
「ルケン様。ご足労、度々、度々かしこみまして候」
監査官の一人が頭を下げながら口を開く。しかし少年……十二、三ほどにしか見えない彼は監査官を一瞥もしなかった。もう一度鼻を鳴らし、侮蔑をこめた瞳で廊下の突き当たりを見てから、視線をカランに送る。
194:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:18:52.66 ID:oNd+Ad/T0
ルケンと呼ばれた少年は、そんな彼女の様子を気にかけるでもなく、悠々と姫巫女達が並ぶ廊下を歩いてカランに近づいてきた。
――臭い。
臭いの。
195:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:19:21.88 ID:oNd+Ad/T0
そしてわざとなのか、すり足でゆっくりとその場を去りながら口を開く。
「……異臭がするから来てみれば……」
「……」
196:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:19:50.66 ID:oNd+Ad/T0
彼女達は、それこそが男性の志向の……最上の美顔だと思っている。
しかしカランから見れば、それはそう……ただ、そう……。
邪悪な。
どうしようもなく邪な。
ゼマルディのように本心から笑い飛ばすような笑顔ではなく、ただ単に何もない。
197:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:20:57.45 ID:oNd+Ad/T0
「は…………はぃ」
最後の方は、恐怖で掠れて消えた。
彼が何のためにここに来たのか、それを推し量りかねていたのだ。もしかしたら一年ほど前のように、狭い部屋に二人きりで何時間も閉じ込められ、好き勝手に弄り回されるのかもしれない。
そんなことになったら、本当に死んでしまう。
198:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:21:25.13 ID:oNd+Ad/T0
それを、彼はただ面白そうに。
ニヤニヤ笑いながら……時にカランを手に持った鞭や棒で突いたり叩きまわしたりしながら見つめているのだ。
それこそ、何時間も。
何十時間でも。
199:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:21:58.02 ID:oNd+Ad/T0
口に出すことは出来なかった。
しかし真っ青になっている彼女を見て嘲るようにクスリと笑うと、ルケンは続けた。
「…………元気?」
200:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:22:28.87 ID:oNd+Ad/T0
「ルケン様……?」
監察官が驚いたように声を上げる。それを聞いて、一瞥もせずに歩きながら彼は言った。
「このあたりに所用があったから寄っただけだ。他意はない」
201:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:23:00.07 ID:oNd+Ad/T0
「じゃ……彼女を宜しく」
「お任せ下さい」
「それと……」
202:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/10(金) 20:23:27.73 ID:oNd+Ad/T0
途端、カランはポケットに入れていた手に衝撃が走るのを感じ、慌ててそれを外に出した。
「潰しておかないといけないって、思わないかい?」
言い残し、コツ、コツ、コツとルケンは玄関の方に歩いていった。
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