213:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:05:20.24 ID:87ru5DuQ0
「ごめんね。花壊れちゃった……」
いろいろなことが起こりすぎて、疲労も限界だった。何よりルケンに近づかれたせいで、鼻や胃がギリギリと痛い。顎をつままれたので変な臭いもする。一刻も早く風呂に入りたかったが、妹がいない今、また蹴られてしまうのではないかと思うと行くことが出来ない。
何より今は、夕方の定例礼拝の儀……その最中のはずだ。サボってここにいる以上、監査官にお咎めを喰らうかもしれない。
214:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:05:59.89 ID:87ru5DuQ0
「えーとお……出直した方がいいか?」
「……」
「リカラン? おい?」
215:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:06:32.61 ID:87ru5DuQ0
「ここの食い物はうめーからな。厨房に忍び込んでとってきてやっぞ?」
「……」
「風呂に行くか? 俺が入り口で見張っててやる」
216:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:07:25.18 ID:87ru5DuQ0
ゼマルディは途方に暮れたように頭を抑え、そして息をついた。
「そ、そっか。悪かったな……ほんじゃ俺ぁ戻るよ」
「やだよ」
217:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:07:53.84 ID:87ru5DuQ0
「ずっとここにいてよ……」
「あ…………ああ…………まぁ…………」
煮え切らない返事だった。
218:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:08:34.50 ID:87ru5DuQ0
「大変?」
「だろ?」
「大変じゃないよ」
219:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:09:06.16 ID:87ru5DuQ0
相当精神的にも肉体的にも疲労しているらしい。正直、ゼマルディからしてみても有頂天になっていたため、それが閉塞空間で囲われている少女の体力にどんな影響を与えるのか、それを推し量ってはいなかった。
何しろ五年以上前から狙っていた女の子なのだ。自分には到底届かないような高嶺の花だと思っていた。実際にそうだ。こうして喋っているところを他の誰かに見られれば、自分は黒い一族からの討伐隊にたちどころに駆除されてしまうだろう。
そう。
だからこそ……。
ゼマルディは真っ青になりながら、ルケンの花をチラチラと見ていた。その視線にやっとカランが気づき、不思議そうに口を開いた。
220:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:09:35.19 ID:87ru5DuQ0
生返事を返す。それをカランは、彼が苛立っている証拠ととったらしい。
「触りたくないんだよ」
慌ててそう言って、彼女はコップを手にとってルケンの花を突き出した。
221:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:10:12.74 ID:87ru5DuQ0
「どこか遠くのところに……」
「……」
「お願い……」
222:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:10:42.15 ID:87ru5DuQ0
硬直しているゼマルディに気づいていないのか、カランは疲れきった顔で目を閉じた。そして、よほど疲弊していたのか、何分も経たずにゼマルディの手を握りながら寝息を立て始める。
その手は、異常なほど冷たかった。体力が著しく低下しているせいがあるんだろう。事実、彼女の部屋の隅に丸められたシーツはほぼ血みどろの様子を呈していた。ここで行った羽生やしの儀式は、予想を遥かに超えて血を奪ったのだ。それに加えて無茶な動き、そしておそらくは大して食事を行っていないことで回復をしていないのだ。
左手でコップを握りながら、ゼマルディは小さくて柔らかい手をそっと外し、折れんばかりに歯を噛み締めた。
――俺は。
223:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/11(土) 19:11:11.09 ID:87ru5DuQ0
一目惚れとでもいうのだろうか。
それとも、運命とでもいうのだろうか。
あの腐った下層からこの子を見た瞬間、自分のことを救ってくれるのは彼女だけだと理由なき確信をした。
そう。
理由はないけど。
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